こいはなび「・・・おめえな」 かの人物は、剃り上げられた頭をぴかりと光らせて低い声で言った。 「それでもオトコか?あ?」 情けねえ、と呟くのは松本良順。 木屋町にある自分の弟子の家を仮宅にして幕府に出入りする御典医である。 西洋の医学に通じ、どんな病気も彼に診てもらえばたちどころに快癒するという噂さえ流れている。 が、将軍の脈をとる彼であっても治せない病は当然あった。 その最たるものは、恋の病だ。 松本の前には男が一人座っている。 少しくせのある髪を高く結い上げ、すらりとした体を丸めて、居心地が悪そうにしていた。 「ったく、俺が大坂に行ってる間に少しは進歩するかと思ったのによ」 耳の穴を小指でほじりながら、松本はため息をついた。 「セイが女だってバレたのはおめえのせいだったな」 「・・・はい」 「薄々感づいてた土方にそれとなく聞かれてバラしやがったんだったな」 「・・・・・・はい」 「アイツもその辺はさすがだな。で?その後、除隊になったのを里乃のところへ転がり込ませて、仕事がなくなってヒマだからって俺んとこに寄越しやがったんだよな」 「はい・・・」 「おめえのおかげであの野郎は医術の腕をぐんぐん伸ばしやがって、今じゃ南部の下で助手も勤めてる。おまけに今度は医者として 新選組に復帰するってえ息巻いてる始末だ」 「はい・・・」 「それもこれも、おめえと一緒に戦いたいからだぞ」 「・・・はい・・・」 「あれだけ生死の境に棲んでることをわかってるくせにだ。それだけあの野郎に惚れられてて、しかもおめえもあいつに惚れてる。さっさと夫婦になっちまえ」 「い、いや、それは」 「まーた“私は生涯女子を娶る気はありません”か?いい加減にしろよ?」 松本は額に青筋をくっきりと浮かび上がらせて、くせっ毛の男に説教を続けた。 「親とも言えるこの俺が大坂に十日も出張でいないとなりゃあ、ちらっと誘ってヤっちまうのが普通だろ」 「・・・!あり得ません!そんなことはあり得ませんよ法眼!」 「まったく・・・これだから免疫のねえ野郎は困るぜ」 「臆面もなくそんなことを言う法眼の方が私は困ります」 「生意気なこと言ってんじゃねえぞ。ガタガタ抜かしてる間に他の男に取られてもいいのか?」 「それは嫌です」 「即答か。じゃあ決まりだな」 くせっ毛の男は新選組一番隊組長、沖田総司。 もはや説明不要、“鬼の棲家”新選組で最強と謳われる剣の使い手である。 大刀小刀、はては包丁まででも握らせたらその扱いは冴え渡り、どんな悪党も局長の命令であれば一刀両断に処してしまう。 そんな男が、好きな女子に対してはまったくの奥手であることを知る者は少ない。 「次の非番はいつだ」 「明後日です」 「明後日か。ちょうどいい。おめえ、セイと一緒に大坂へ行け」 「えっ」 「大坂で花火が上がる。でかいやつだ。それを見ながらセイに夫婦になれって言え」 「ええっ」 「いいだろ、最高の場面だぜ。派手に上がる花火の下、暗がりの中で肩を抱いて言われりゃ、どんな女も落ちるに違いねえ」 「ほ、法眼」 「ああ、もうぐだぐだ言うな。おーい、セイ!」 「法眼!」 「セイ、いるんだろ、ちょっとこっち来いや」 ぱたぱたと軽い足音がして、セイがやって来た。 「はい、法眼。お呼びでしょうか。あ、沖田先生!お久しぶりです!」 「こ、こんにちわ神谷さん」 「セイ、この野郎がおめえを大坂に連れて行きたいだとよ」 「・・・ええっ、それは私じゃなくて法眼がっ」 「大坂に行った時に、近々花火を打ち上げるって話を聞いたからこいつにしたらよ、ぜひおめえを見に連れて行ってやりてえだと」 「法眼っ」 「わあ、本当ですか、沖田先生!」 「ああ、本当よ。俺が万事手配しておいてやるから、たまにはおめえも羽伸ばして来い。南部には俺から言っといてやる」 「嬉しいです!沖田先生、ありがとうございます!」 「あ、あの神谷さん」 「沖田、俺の大事な娘を頼むぞ?あ?」 「・・・は、はい・・・」 かくして、総司とセイの大坂行きは決定したのである。 松本は土方に相談し、総司を大坂へやる口実を作り上げた。 大坂に駐屯している谷三十郎の元へと土方の書状を届ける名目である。 実際、大坂の様子はどうなのか伺いを立てようと思っていたところなので、土方はすぐに書状をしたためた。 そしてさらに総司が逃げられないように、同じく非番であった永倉・原田・藤堂をお目付け役として選んだ。 事の全てを承知すると、三人はさっさと旅支度を始めた。 二日後、朝早くに、女子姿のセイと船着場で待ち合わせた。 その可愛らしい姿に、男四人は感嘆の声を上げた。 が、船に乗り込んで話しているうちに中身は神谷清三郎そのままであることを知り、まるでセイが新選組にいる頃と同じような雰囲気になった。 大坂に着くと、隊の定宿である京屋へと向かった。 そこにはすでに谷が控えており、土方からの書状を受け取るのを待っていた。 それを読むと谷は、総司たちが帰る時までには返事を書くことを承知し、京からの来訪を労う宴を催した。 総司とセイはほどほどに飲み食いしたが、他の三人は相当な量を口にしたようだった。 そろそろ夕方になり、花火を見るのに出かけなければならないというのに、永倉たちはすっかり寝込んでいる。 (まあ・・・ついて来られるよりよっぽどましですけどね) せっかく法眼が気を使って場を設定してくれたのだ。自分も腹を括るつもりで来た。それなのに横槍を入れられてはたまらない。 「神谷さん、今のうちに出かけましょう」 こそりとセイの耳元でそう言うと、総司は立ち上がった。 「はい」 差し伸べられた手を取り、セイは立ち上がった。 「着替えてからでいいですか?すぐ済みますから」 「ええ、いいですよ」 セイは総司が承諾してくれたことににこりと笑うと、自分に宛がわれた部屋へと戻った。 総司はそっと足音を忍ばせて宿の外へ出た。 「先生、お待たせしました」 総司は柔らかいその声に振り向いた。 そこに立つセイの姿を見て目を細める。 セイは浴衣に着替えてきた。下から上に向かって淡い水色から白へのぼかしが入った生地に、色とりどりの朝顔が咲き、蔓を伸ばしている柄だ。 明度の高い白はセイの肌に映え、年相応の可愛らしさを引き立たせている。 結い上げられた髪には浴衣と揃いにしたのであろう、朝顔の意匠がきらきらと輝いていた。 「・・・変ですか?」 セイは黙っている総司に、首を傾げて問うた。 「いいえ、似合ってますよ、とっても」 すぐにそういう言葉の出ない自分がもどかしい。総司は言い馴れない言葉に自分で照れて頭を掻いた。 「よかった」 言われたセイも照れて頬を染める。 「じゃあ行きましょうか」 「はい」 総司は再び手をセイに差し出した。 セイも笑顔でその手を取った。 京屋の前からそのまま船に乗った。 松本が言ったとおり全てのお膳立ては整っていて、花火見物のための船までも用意されていた。 小さな屋形船が一艘。大阪では御座と呼ばれている船だった。 北から流れてくる淀川は大きく西へ曲がり、大川と名を変えて天満橋と天神橋を従える。天神橋のさらに西が難波橋だ。 その難波橋付近で夏の大花火が打ち上げられる。 船頭が腕を動かすと、二人を乗せた船は滑るように漕ぎ出していった。 橙色に染まる太陽が傾いていく中、川の上には何艘かの御座がすでに姿を現している。 その中でも、遊女らしき華やかな女子たちを乗せた大きな御座が一際目を引いた。 乗っている女子たちの格好も頭から爪先まで金銀に彩られた華やかなものだったが、船自体にも夕日を反射してまばゆく光る下がり物が付けられていた。 それらが水面に映り、船の舳先でかき分けられる水しぶきすらも黄金色に跳ねる。 「うわあ、きれい!沖田先生、見てください!」 簾を巻き上げて外を見るセイが興奮して身を乗り出す。 「神谷さん、落ちないでくださいよ」 その隣に並んで総司が苦笑いを漏らす。 「落ちませんよ、この程度で」 いくらなんでも、とセイは頬を膨らませた。 船の中には心づくしの大阪の味が並んでいた。 京屋でそれなりに食べてきてしまったのであまり腹は減っていなかったが、総司は松本の気遣いが嬉しかった。 同時にそれが松本からの無言の重圧とも感じられてこそばゆい気もしたが。 セイは夢中になって他の船を見物している。 とりあえず花火を見物しよう。せっかく連れてきたのだから、まずは純粋に花火を楽しもう。 自分の本当の用事はそれからでいい。 総司はひとつひとつの船に感想を述べるセイを優しいまなざしで見つめた。 薄暮から真の暗闇へ。 夜の帳が下り、大川の上の船の明かりと岸の建物の明かりが辺りを照らす。 それから天神橋や天満橋の上の人が持つ提灯の明かりも。 橋の上には人が大勢ひしめき合い、今にも橋が落ちてしまうのではないかと思われるほどの影が乗っていた。 だが空は星のみが静かに瞬くばかりで、地上でちっぽけな人の作る明かりなど届きはしていなかった。 「まだですかね」 船の見物を終えて、セイは乾ききった喉を冷たい茶で潤した。 「そろそろじゃないですか?」 総司も茶を飲みながら答えた。 セイが楽しみにしているから早く始まってほしいとは思うが、花火が終わった後のことを考えると総司は緊張を隠せない。 何も知らずにただ花火を楽しみにしているセイが小憎らしいくらいだ。 ざわざわと他の船からも声が上がっている。 どこかの船からは音曲が聞こえ、時折歓声が聞こえる。曲調からして何かの踊りのようだ。 見物のための船が出揃った頃合を見計らったかのように物売りの船が出てきて、狭い間隙を縫って商売の声を放つ。 「冷やし瓜〜、冷やし瓜はいらんかね〜」 セイが見ていると、物売りの船が見物の船の前に器用に回り込んでその行き先を塞いでいる。 その船の客が物を買うまで、物売りの船は前からどかないつもりらしい。 「うろうろ舟でんな」 船頭が言った。 「ああやって押し売りするんですわ。つきつけ売とも言いますわ」 「へえ・・・」 「心配には及びまへんで。うちがよけますさかいに」 船頭はセイにそう言って、ぐいぐいと櫂を漕いでうろうろ舟の群がる場所から離れていった。 船頭は難波橋からやや離れたところに船を止めた。 「そろそろでんな」 船頭が暗い中で目を凝らした。 その瞬間。 どおんと、空を打ち破るような轟音が響き渡った。 見上げると、漆黒の空に目の覚めるような大きな光の華が咲いていた。 「わあ!」 「・・・!」 セイは丸い目を大きく見開いた。 総司も花火の大きさに驚いて言葉を失う。 辺りの船の喧騒も一瞬静まり返った。 次の花火が上がる。 ぼっと打ち出す音が小さく聞こえた後、空を細い火が頼りなく上がって行き、すっと消えたかと思うと大きな爆発音とともに閃光を放った。 水面も橋の上も岸辺もぱっと明るく照らされる。 「すごい・・・!」 セイはますます身を乗り出して空を見上げた。 何度も花火が打ち上げられ、空をまるで昼のように一瞬だけ照らす。 大きな音に体の芯が貫かれるようだ。 「先生、すごいですね!」 「そうですねえ・・・」 ただそれだけしか口に出せないほど見事な大きさだ。 丸く咲くもののほかに、上がった後天空からはらはらと柳のように光を散りばめながら落ちてくるもの、咲かずに一筋の光だけが長く尾を引いて地上に向かうものなど、 ひと口に花火と言えども実にさまざまな種類が打ち上げられた。 「あ、神谷さん、今何発上がりましたか?」 ふと総司が思い出したように聞いてきた。 「さあ・・・八発ぐらいだと思いますけど」 セイは顎に指を当てて少し反芻して答えた。 「そうですか」 総司はそれを聞くと再び夜空に目を移した。 松本の話では、今夜は二十発程度の花火が上がるとのことだった。 それが終わったら、セイに告白しなければならない。 一発、また一発と花火は次々に打ち上げられていく。 その度に目を輝かせて喜ぶセイとは裏腹に、総司の心は不安に曇っていった。 背中に隠した指が二十発目を数えた。 辺りには静寂が訪れ、ほうというため息があちらこちらから聞こえてきた。 「はー・・・よかったあ・・・」 自分の隣で拳を握り締めるセイもまたため息をついた。 「よかったですね、沖田先生。法眼に感謝しなくちゃ」 にこにこと機嫌がよさそうに笑い、セイは総司の方を向いた。 「沖田先生もありがとうございました。せっかくの非番でお休みなのに大坂まで連れてきてくださって」 セイは軽く頭を下げた。 そして顔を上げた直後に、その動きを止めた。 総司が何か思いつめたような目でセイを見ている。 花火の後の感想を語るような雰囲気でも、非番をつぶして一緒の時を楽しんだことを語るような雰囲気でもなかった。 「お、おきたせんせい?」 セイは無意識のうちにたじろいだ。 「神谷さん、あの、花火も大事だったんですけど」 総司は一瞬視線を足元に落とした後、すぐに頭を上げてセイと視線を合わせた。 右手でセイの手を取り、その上に己の左手を重ねる。 「神谷さん」 「はい」 自分の鼓動が、花火の爆音で聞こえが悪くなった耳に煩い。 総司はぐっとセイの手を握った。 「神谷さん、私と」 ドオン。 総司の口が動くのだけが見え、その言葉は大きな音にかき消された。 いい加減に数えていた二十発目が、実は十九発目だったらしい。 本当の二十発目が空に最後の光を放った。 「?」 セイは小首を傾げた。 総司は決心して放った言葉に、耳まで赤くなっている。 「今、何て言ったんですか?」 「・・・」 「聞こえなかったんですけど・・・」 そうだろうなあと総司はがっくりうな垂れた。 あれだけの轟音だし、何度もあの大音量を受けてぼんやりとしている聴覚で聞こえているほうがおかしい。 「おーい」 と、その時、最後の一発が上がったのを確認した他の船が岸に戻っていく流れに逆らって、小船が一艘近寄ってきた。 「永倉先生たち?」 セイは花火に慣れてしまった目を凝らしてその影を見遣った。 「寝た振りして後からこっそり船で追いかけようと思ったのに、この人出っつーか船出っつーか。お前らがどこにいるのか全然わからなかったぜ」 漕ぐ手を止めて永倉が言った。 「あーあ、せっかく総司が告白するところをこっそり覗き見するつもりだったのに失敗したね」 藤堂が頭の後ろで手を組んでつまらなそうに呟いた。 「覗き見って藤堂さん・・・何のために大坂に来たんですか・・・」 総司が脱力したまま藤堂へ視線を向けた。 「土方さんに言われてデバガメするためだろ?」 原田が船の縁に体を預けて総司に言う。 「悪趣味もいいところじゃないですか・・・」 はぁと大きく息を吐いて総司がぐったりとした表情になる。 「何言ってんだよ総司!大事な兄弟分の恋路がどうなるのか見据えるのが年長者の務めってもんだ!わかってねえなあ!」 勢いよく原田は立ち上がった。 「おわっ左之助、立ち上がんじゃねえ!」 永倉が腰を浮かす。 小さな船は重心が揺らぎやすい。大人一人が立ち上がるだけで容易にひっくり返ってしまう。 「うわ、永倉さんも立たないで!」 原田を掴んで座らせようとした永倉の動作で、船はますます傾いだ。 さらにそれに驚いた藤堂が舟の均衡をとろうと縁を掴む。 が、その掴んだ瞬間がよくなかった。 「「「うわああああ!!!」」」 三人それぞれの動きで、デバガメの小舟は見事に転覆してしまったのである。 「バチが当たったんですよ」 総司は目をジト目にして三人を睨んだ。 永倉たちは川に落ち、ずぶ濡れになって総司たちと一緒に京屋へ戻ってきた。 三人は風呂に入り、着替えておとなしく座っていた。 「あーあ、土方さんに怒られる」 藤堂が目を閉じて胸に手を当てた。 「そうだよなー、カネ出してもらってこれじゃあどんなお仕置きされても文句は言えねえや」 原田が苦笑いをした。 「頼りねえとかヘチマの方がぶらぶらしてるだけマシだとか言われんだぜ、きっと」 永倉も二人の前に乗り出して、やっちまったとばかりにため息をついた。 「それよりも今私が目の前で怒ってるほうが問題だと思わないんですか」 総司が彼らの会話を聞いて、背に黒い影を背負う。 「皆さんどうですかー?」 セイが障子を開けて入ってきた。 デバガメ転覆三人衆はセイの登場で総司が影の黒さを引っ込めたのを感じると、一様にほっとした。 「いいんですよ神谷さん、こんな人たちのことはほっといて」 総司は厳しい目で三人を睨んだ。 「でも風邪でもひいたら大変じゃないですか」 「ああ、何とかは風邪ひかないって言うし大丈夫ですよ」 ことさらに冷たく言うと、総司は心配するセイの背中をぐいぐいと押した。 「もう遅いですから寝なさい。明日に障りますよ」 「ええ、でも・・・」 「明日は早く起きて天神橋を渡って、天満宮にお参りして帰りましょう」 「はい。お休みなさい沖田先生。永倉先生たちも」 セイはぺこりと頭を下げると、自分の部屋へと戻っていった。 「総司、もう俺たちも部屋に戻っていいかな?」 藤堂がしびれた足をさすりながら聞いてきた。 セイが部屋に戻ってから、かれこれ一刻が経とうとしている。 その間、三人は総司の視線を浴びながらずっと正座させられていたのだ。 「まあそろそろいいでしょう。でも明日は私たちに関わらないでくださいね」 総司は反省した様子の三人を、釘を刺して解放した。 三人はふーとかはーなど言いながら、よろけた足取りで総司の部屋を後にした。 翌朝早く、総司とセイは天満宮に詣でた。 八軒屋から橋を渡り、ゆっくり歩いて大きな社に辿りついた。 一度大火で焼失し、再建されてから二十年が経つ。建物に、だんだんと時が経ったなりの風格が漂っていた。 照りつける日差しの中、社の前で二人並んで手を合わせる。 ちらりと総司はセイの方を片目で見た。 何を願っているのかは窺い知れないが、その口元には微かに笑みが宿っている。 今はまだ、こうしていたい。 総司は思った。 場を作ってくれた松本には申し訳ないが、今はまだこうしてただ横に並んでいたい。 時が来ればきっと切り出せるだろう、自分の本当の気持ちを。 でもまだ今はそれを自然と口に出せない。 もし自分がその時を待っていたせいでこの娘を誰かが見初めたとしても、きっと奪い取ってみせる。 それ位の気概は持ち合わせているつもりだ。 どうかその時まで。 総司は前に向き直り、両手をきっちりと合わせると頭を下げた。 「・・・おめえな」 かの人物は、剃り上げられた頭をまた光らせて低い声で言った。 「それでもオトコか?あ?」 京に戻ってから経過を聞いた松本は、数日前と同じ台詞を口にした。 「情けねえ」 「すみません」 体の中の空気を全て吐き出すかのように鼻から息を出す松本を、総司は笑顔で見つめた。 参考文献: 『嬉遊笑覧(三)』 喜多村?(”竹冠”に”均しい”)庭 岩波文庫 2004年 『図解 江戸の遊び事典』 河合敦監修 学研 2008年 『城と城下町 大坂 大阪』 渡辺武監修 学研 2008年 |