久遠の空 ドリーム小説 時渡り 神隠し1

時渡り、神隠し

update:2007.06.28

時渡り、神隠し 1

 どんぐりころころ、という歌をご存知だろうか。
 一粒のどんぐりが池に落ちてなんだかんだという童謡である。




 私は旅行で京都に来ていた。
 たまには家の男連中を置いて女同士でゆっくりしたいという母の希望で、ふたりきりの旅行だった。

 長く新幹線に揺られて京都駅に着いた。
 京都に来たのは、中学生の時に修学旅行で訪れて以来だった。
 だいたい修学旅行のときなど、碌に観光させてくれない。
 正直、ただ早足で日程を消化するだけだった。
 先導するガイドさんや先生に着いていくだけで、何が“修学”なのか疑問だった。


 宿泊先のホテルはちょっとしたところで、庭園の景観が美しいところとして人気があった。
 着いて一休みしたあと、母と二人でさっそく散策に出かけた。

 なるほど、評判どおりだった。
 色とりどりに景観を覆う葉。
 さりげなく、でも緻密な計算の上に敷かれた飛び石。
 日が傾きかけた時間、昼間より少しオレンジがかった風景は、京都の空気を一層引き立たせた。

 生い茂る木の葉からこぼれてくる光にしばし我を忘れ、ゆっくりと歩を進めた。

 心を奪われたまま、庭の奥へと足を運ぶ。

 そこには池があった。

 陽の光を受けて、濃い橙色に鈍く光っている。
 水面が風に撫でられるたびに僅かな波を立て、微妙にその表情を変える。

 小刻みに連続して光る様子を見つめていると、橙色の奥に、薄い黄金色の光が混じるのが見えた。

 きらり、きらりと、瞬くように、誘うように。

 何か落ちているのだろうか。
 私はもっとよく見たくて、池を縁取る石に足をかけた。

 その瞬間。
 靴の底が滑る感触が。
 自分の体が大きく傾く感覚が。
 そして、バランスを失った体が音を立てて水面に打ち付けられる冷たさが。

 私を、
 襲った。




 20061230