お前への不満×20 17.俺と離れるのが寂しくないのかよ
「これで終いか」
俺はしたためるべき書状をすべて片付け終えて後ろを振り向く。
書見台を前にしてひっそりと本を読むお前の姿は、今日もそこになかった。
この部屋はいつも静かだ。
二人で居ても、お前はいつも余計な音を立てない。
俺が紙の上で筆を走らせる音と、お前が読んでいる本を1枚ずつめくる音。
それがこの部屋の日常を彩る、いつもの音だ。
その音が、ここ数日は片方しか聞こえない。
あの忌々しい雇い主に呼び出されて、お前はもう二日も戻ってきていない。
いったい今頃、どこで何やらされてんだか…。
廊下の奥から押し殺した足音も聞こえず、
障子に細い体の影も近寄ってこない。
俺は煙草盆を引き寄せた。
お前が同じ部屋で一緒に暮らすようになってしばらく、
正直なところ、めんどくせえとか気を遣うとか思っていた。
だが、お前はすぐに部屋の雰囲気に溶け込むようになり、
時折池が光ってねえか確認する身じろぎ以外は、
まるでそこにいないかのように静かにしていた。
そう、静かだった。
いないかのように静かにしてたんだ。
だから、今本当にいねえのと同じはずなのに。
ほんの僅かな、余計な静けさに、心がうずく。
く、と自嘲が漏れ、白い煙が併せて揺れる。
まさかお前にこんな気持ちを抱くようになるたあ、
これっぽっちも思ってなかった。
鬼の副長が、小姓ひとりいねえぐらいでこのザマたあ、
誰にも言えたモンじゃねえ。
今、どこにいる?
誰と何をしている?
お前はいつも何も言わねえが、
俺が側に居ないことを、どう思ってるんだ。
保護者でも何でもいい。
少しでも俺のことを思い浮かべたりはしてねえのか。
コン、と煙管を打ち付けると、
黒く焦げた吸い殻が音もなく落ちてきた。
こうして簡単に捨てられる想いならと、
胸のうずきを誤魔化すように深く息を吐いた。