久遠の空 ドリーム小説 2012年拍手文 十一月 その1

お前への不満×20    18.何で俺にだけ内緒なんだよ

お前が女だとばれてから、
かっちゃんは妙にお前を構うようになった。

「ちょっとこれやってくれないか」
「お茶を頼んでもいいかい」
「トシの分も膳を持ってきなさい。
一緒に飯を食おう」
「この菓子、いただきものなんだが、
総司の分はとっておいてあるから、
あとは君にやろう」

秘密を共有しているからって、
いささか構い過ぎなんじゃねえか。
あんなに過保護にしたら、
あいつに何かあるんじゃねえかって、
逆に怪しまれるだろうが。
もうちっと普通にしてくれ普通に。


…と思っていたら、かっちゃんがお前を
妾宅へ呼び出して、ふたりだけで話をしてきやがった。

かっちゃんがお前にしただろう話なんざ、
だいたいわかってる。
お前が女だってことについて、
お前から直接聞きたかったんだろう。

だが、それだけじゃねえはずだ。




昼の日差しは天からまっすぐ届き、
澄み切った暖かさを落とす。
昼餉の後、日の当たる縁側で煙草をふかす俺に、
お前は茶を勧めてきた。

「いいお天気ですね」
縁側の縁で柱にもたれる俺とは反対に、
廊下の奥、障子の際ぎりぎりににおまえは座り、
湯飲みを手にする。

その離れ方は何だ。
もっとこっちへ来たっていいだろ。
お前をとって食うわけじゃねえんだ。

ちょいちょいと手招きをすると、
お前はゆっくりと膝を進める。
一度止まって座ったが、まだ遠い。
俺の横に座れってんだ。


ようやく横に来たお前をじっと見る。
いつもと同じ穏やかな雰囲気をしちゃあいるが、
一度もこっちを見ねえで、
空を見て茶をすすっている。


「かっちゃんに何を言われた」
ふうっと煙を青空に向けて吐き、俺は問う。
「…あの、私のことについて…です」
素早く周りに目を走らせ、小さな声でお前が答える。
「そんなこたあわかってる。
それだけじゃねえだろう、その態度は」
「え、その、あの、それだけです…たぶん」

完全にばれてんだよ、隠してんだろうが。
かっちゃんの妾宅から帰ってきてから、
明らかにお前は俺と距離を置こうとしてる。
もっと詳しい何かを言われたはずだ。



問いつめようとしたが、言葉に困った。
お前が女だってわかって、
俺に妙な手出しをされてんじゃねえかとか、
俺が昔っから女の修行は積んでいるから
気をつけたほうがいいとか、
かっちゃんに言われたんじゃねえだろうな。

そう聞きたいところだが、
屯所でお前が女云々の話なぞ出来るわけがねえ。

それともまさか。
お前が女だとわかって、
血しぶきの上がる新選組から遠ざけようと、
どっかの男と縁組でもって話になったとか?



そこまで考えてふとお前を見ると、
お前もこっちを見ていた。
が、目が合うとすっと視線を逸らした。



「今じゃなきゃ、いけませんか?」



言え、と強めに脅してやろうと思った矢先に、
お前が口を開いた。

「どういうことだ」
「あの…どうお話ししたらいいか、
今はわかりません。
私の気持ちが整理できて、
きちんとお話出来ると思った時にでは
駄目でしょうか」

…何でそうなるのか、さっぱりわからねえ。
何を言われたのか言えばいいだけだろ。

だが、そう言うお前には考えがあるんだろう。
無理矢理それをこじあけることはしたくねえ。
物分かりがいいオトナの男の振りも、
なかなか大変なんだがな。


「ちっ」
俺は舌打ちをした。
「ありがとうございます」
それを同意だと受け取り、
お前はほっとして空気を和らげる。


「約束だからな」
「はい」
「じゃあもっとこっちへこい」
「はい」


先に腕を伸ばして、お前は湯飲みを置く。
それから両手をついて俺の近くまで膝で進んできた。

姿勢を正して頭を上げた瞬間、
肩を掴んでお前を引き寄せ、
唇を重ねた。


「土方さんっ」
お前は体を後ろに引く。
「約束したからな」
くつりと俺は笑う。
「こういうことはやめてくださいって、
何度も申し上げてるはずですけど」
真っ赤になって睨んでくるが、
ちっとも迫力なんかねえ。
かわいいだけだ。


お前のその表情に免じて、
かっちゃんと何を話したのかは待ってやってもいい。
いずれお前の口から聞けるのを、俺は待っている。