お前への不満×20 8.俺の優先順位が低すぎないか
「あー…ちくしょう…」
朝の光が頭に響く。
少しだけ開けられた障子から入り込む光ですらこれだから、
直射日光なら突き刺すように痛えかもしれねえ。
ゆうべは完全に飲み過ぎた。
かっちゃんについて行って、会津藩の重役たちと飲んだ。
久しぶりに顔を出したもんだから、
酔っぱらいの重役たちに絡まれたんだっけ。
…で、どうしたんだっけか。
たかが絡まれたぐれえで飲み過ぎる俺じゃねえはずだ…。
ああ、そうそう、思い出した。
お前のことだ。
重役の誰かの側についていた奴が、
お前のことをやたらと誉めたんだ。
俺の側に寄ってくるとそいつは、
お前は異国の言葉も見事に操り、上層部の覚えもめでてえ、
顔立ちは柔和で、物腰もすっきりしていて、
静かな雰囲気がたまらねえとか、
舌なめずりでもしそうな勢いでまくしたてやがったんだ。
間違いねえ。
あの野郎はお前に惚れてる。
そう思ったら、俺は殺気立つほどそいつを睨んでいたらしい。
そいつはひぃと小さな悲鳴を上げて尻餅をつき、
いち早く気づいたかっちゃんが仲裁に入って、
落ち着けと言いながら俺の杯に酒を注いだ。
俺が飲み干すと、尻餅野郎は俺を酒好きだと思ったのか、
ご機嫌でもとるかのように酒を注ぎだした。
本当は飲みたくなんぞなかったが、
かっちゃんの手前、会津藩の関係者からの酒を断るわけにもいかねえ。
仕方なく、飲んだ。
尻餅野郎は次々と酒を注いできた。
何で俺が、ムカつく野郎の酌で酒なんか飲まなきゃならねえんだ。
しかもこっちからもういいと断るのも、理由はねえが、
負けるような気がして、断れねえ。
そのまま飲み続けて、その後は覚えがない。
気がついたらというか、さっき目が覚めたら、
屯所の自分の部屋で、布団に入ってた。
たぶん、酔いつぶれた俺を、
かっちゃんが駕籠を呼んで屯所まで帰してくれたんだろう。
「はー…」
痛え。頭がガンガンする。
水だ…水。
「おい、水…」
隣の布団を見れば、もぬけの殻だ。
痛む頭を片手で押さえ、もう片方の手を伸ばす。
手に触れたお前の布団からは、温もりが感じられなかった。
どこ行きやがった、こんな時に…。
がくりと頭を垂れれば、枕に額がぶつかった。
「いって!」
内側の痛みに加えて、外からも痛みが。
これが叫ばずにいられるかってんだ。
痛みと吐き気をこらえていると、
屯所内のどこかが騒然としているのに気づく。
…何かあったのか?
ぱたぱたと、軽いがせわしい足音が近づいてきた。
「あ、土方さん、起きたんですか。おはようございます」
たすきがけ姿のお前が部屋に入ってくる。
「何があった」
ゆっくりと体を起こし、お前に向き直った。
「巡察から戻った隊士が怪我をしまして。
神谷さんが診察と治療をしてくれたんですけど、
私もちょっとお手伝いしてて」
そう言うと、お前は矢立を持って部屋を出ようとする。
「ちょっと待て、まず水持ってこい」
二日酔いの病人を置いてどこへいく気だ。
もう怪我したやつらの介抱は済んだんだろ?
「怪我をした隊士はかなり疲れたみたいで、
意識が朦朧としかかってるんですよ。
だから今のうちに簡単な調書をとってきます。
すぐ戻れると思いますので、お水はその時に」
じゃあ、とお前は廊下へ出て行った。
はあ、と溜息をついて額に手を当てる。
我ながら、自分が酒臭い。
どうせお前のことだ、
俺が二日酔いなのも当然わかってる。
が、こんな姿のまま、平隊士どもの前に出られるわけもねえ。
俺の代わりに、怪我をした隊士の記憶が鮮明なうちに、
調書をとっておいたほうがいいと思ってんだろ。
その気持ちはありがたく受け取っておく。
とにかく喉が渇いて仕方ねえ。
一刻も早く水を持ってきてくれ。