お前への不満×20 4.いい加減慣れてくれ
晩春と言えど、夜中ならばまだ吐く息は白く、火鉢も欠かせない。
あちこちへの書状をしたためたり、これからの隊についての考えをまとめて、俺はやっと床についた。
だが、潜り込むのはお前の布団だ。
「・・・お疲れ様です・・・」
こちらを少しだけ振り返り、半分寝ぼけた声でお前が言う。
そう言ってくれるのはお前だけだ。
普段は押し殺している気持ちが思わず出そうになる。
腕を伸ばし、お前の体を後ろから抱き締め、息を詰める。
こいつは俺の腕の中にいる。
だから落ち着けと、誰にも渡さないしどこにも行かせないと、自分を宥める。
すると不思議なことに、しばらくすれば心が静まってくるもんだ。
お前はと言えば俺の気持ちも知らずに暢気なもんで、ぴくりともせずにただ俺のするがままになっている。
拒絶されるよりはマシだと小さくため息をついた。
(拒絶・・・か)
俺はお前の温もりを感じながらふと思い出した。
お前が来て初めての冬が訪れた時のことをーーーー
まるで落とし穴にでもはまっちまったかのように、突然その夜は寒くなった。
まだあの時は壬生の前川邸にいたな。
邸内に冬用の布団が隊士の人数分なくて、貸し布団を頼んでいる最中だった。
近藤さんにはもちろんいの一番で、前川邸に残っていた上等な布団を使ってもらったが、
後で幹部だけいい布団でずるいだの何だのと騒ぎ出すヒラどもがいるとやっかいだから、
俺は最後でいいと断ったんだった。
冬の夜なんざ、どこでもーーー故郷の多摩だろうと、この京だろうとーーー寒いに決まってんじゃねえか。
どこでも一緒だろと俺は思っていた。
だが、冬の京の寒さは多摩の比じゃなかった。
なんだこの底知れぬ寒さというか、冷えというか。
寒さのバケモノが足を掴んで、地の底にでも引きずり込んでるんじゃねえのかと思った。
布団に入ったはいいが、クソ寒い。
一応綿が入った冬物の布団だが、ちっともあったまってきやしねえ。
俺は目だけを布団から出し、寝返りを打った。
お前が横になっている姿が目に入った。
そう、俺がもっといい布団を最後に借りることにしたんで、同室のお前もそうしたんだったな。
別に俺につき合う必要はねえと言ったが、お前は俺の小姓だからと、合わせたんだった。
お前の布団が小刻みに震える音が、暗闇に小さく聞こえてくる。
当然だ、お前も寒いだろう、俺と同じだけしか布団を被ってねえんだからな。
俺は自分の布団をお前の布団の上に被せて、するりとお前の横に滑り込んだ。
「・・・っ、土方さん?」
「寒いだろ」
驚くお前を後ろから抱き締める。手を握って、足も絡めた。
今まで布団に入っていたとは思えないほど、お前の手足は冷たかったっけ。
「あの、大丈夫ですから。その・・・出て、ください」
お前、今、出て行けって言おうとしただろ。
「うるせえ。ただあったまるだけだ。ひとりよりふたりのほうがあったけえし、
別に何かやらしいことをするわけでも・・・」
するわけでも、ねえし。
やましい気持ちがまったく無いかと問われりゃ、無いとは言い切れない。
この世では斎藤以外身寄りのないお前を預かってやってんだ、少しくらいの役得があっても罰はあたらねえだろう。
だが誓って、お前に無理強いしようとはしていねえからな。
してもいいなら別だが。
「お前なんか襲うか、馬鹿が。今夜は特別に冷える。ただそれだけだ」
びくりとして身を固くするお前の耳に囁いて、俺はお前を深く懐に入れる。
何だかさっきよりお前の体があったけえというか、熱い気がするのは気のせいか?
「その・・・許嫁さんに怒られますよ?」
だから早く自分の布団に戻れと、お前は呟く。
「言わなきゃいいだろ」
俺とお前だけの秘密にしときゃ。
「・・・今夜だけですからね」
俺がまったく腕を緩めないので、お前は諦めたように口をつぐんだ。
俺は軽く頷いて目を閉じた。
誰にも、心も体も開け渡すなと言った。
そのお前が俺の腕の中にいる。
あの夜は、久しぶりによく眠れた。
その後も、俺はお前の布団に毎晩潜り込んだ。
いい加減にしてくださいとお前が頬を膨らませるのを見て、お前こそいい加減慣れやがれと思ったっけ。
そんなお前は、四度の冬を越えた今はもう、おとなしく俺の腕の中で寝息をたてるようになった。
俺が布団に入ってくるのを、とがめる様子は微塵もない。
それだけ俺を受け入れているのかと思うと、口の端に笑みが宿る。
が。どうにも物足りない気がするのは何故なんだ。
抵抗された方が燃えるのか、それとも。
もう一歩先へ進みてえからなのか。
お前は、俺のことをどう思っている?
ばらつく髪をかき分けてうなじに唇を寄せてみても、お前からは何のいらえもない。
もしも俺がこの先へ進むことを望んだら。
時の掟を破ってでも、お前が許してくれる可能性はあるんだろうか。