久遠の空 ドリーム小説 2012年拍手文 7月

お前への不満×20    11.俺が悪かったからそんな顔するな

突然の出来事にお前は驚き、
どうにかして俺の唇から逃れようと、
もがいて、身をよじり、肩を押す。

「ふ、あ…ひじ、か、た、さん…っ?」
こんなことをしている意味を問いたげな、
だが夜更けなだけに控えめな息が漏れる。


意味がないなら与えてやる。
価値がないなら見いだしてやる。
お前が、この時代に生きていくのに必要なそれを。

否、もうお前は俺にとって充分なそれを持っている。

だから。

だから。


「意味も価値もないなんて、言うんじゃねえ」
柔らかな唇を名残惜しく離し、
耳にかかるしなやかな髪をかき分けて、
抱き締めて、
囁いた。



「き…聞いてたんですか」
急にお前が震え出す。

立ち聞きなんかするんじゃなかった。
お前にこんな思いをさせちまうなんて。
今更ながら罪の意識に駆られてきた。


互いに黙り込み、時だけが過ぎる。

俺は何も言えなかった。
俺がお前に抱いている気持ちを吐き出してしまえば、
お前に意味も価値あることを伝えられるだろう。

だが、お前は誰かに惚れている。
俺じゃない。
もし俺なら、拒否する必要なんかねえ。
そんなお前に、俺の気持ちを押しつけられるか。


どうすりゃいいんだ。
お前を暗く冷たい孤独の淵から引き上げてえのに、
そのためにはお前を好いていると言うだけでいいのに、
喉の奥を板で塞がれてるみてえに、言葉が出てこない。


お前が惚れてるその男ってのは、何してんだ。
お前がこんな思いを抱えてるってのに、
どこで何をしてやがる。




「あの…」
かすれた声が耳をかすめる。
「すみません、土方さんに言われたこと、
忘れた訳じゃないんです、けど…」

俺に言われたこと。
誰にも心を明け渡すなと言ったことか。

つまり、認めるんだな。
お前が誰かに心を奪われていることを。


自然と腕が緩み、二人の間を分かつように空気が入り込む。
お前が体を起こして布団を退け、畳に手をついた。

「本当に、申し訳ありません。
私が言ったことは忘れてください。
決して…ご迷惑になるようなことはいたしません」

俺も布団の上に体を起こす。
律儀にも畳の上に座って、深く頭を下げるお前を見下ろした。



俺は溜息をつき、手を伸ばす。
お前の頭をそっと撫でた。
絹糸のように滑らかな感触が指に触れる。
ぴくりとお前が肩を揺らした。

「…お前は、俺の小姓としての役目を果たし、
会津や豚一公に仕え、
通詞や翻訳の仕事もこなしてる。
それだけでいいだろ。
意味とか価値とか考えるな」

「土方さん…」
ゆるゆると頭を上げて俺を見るお前の目は、
とたんに明るさを取り戻していた。


ああ、ちくしょう。
惚れてる野郎がいるんだろ。
そんな顔、俺に見せるな。


俺は力任せにお前を横に倒し、覆い被さった。
「土方さん?」
「うるせえ、くだらねえこと言った罰だ」
そして強引に上を向かせ、再び唇を重ねる。


華奢な手首を押さえ、着物の裾を踏んでしまえば、
お前に抵抗する術はない。
狭い口の中では逃げ場もなく、
行き場を失った舌を絡め取って、
存分に味わった。




どれぐらい時が流れたのか、
随分長く重なっていた気がする。
やっと離した唇から漏れる息は、
互いに途切れ途切れになっていた。

「もう…こんなこと、しないでって、
前からお願いしてるじゃないですか」
とげとげしさを吐息に混じらせ、
お前が俺の胸を拳で叩く。
「お前がくだらねえこと言うのをやめるんだったら、
考えてやってもいい」
くつりと俺が喉の奥で笑うと、
お前は決まりが悪そうに下を向いた。




この時は、思っていたんだ。
お前が俺の前に現れた、
そのことだけで充分に、
お前には意味も価値もあるんだと。
だからお前が誰かに惚れていることからは、
意識的に目を逸らしていた。

そうしていたからこそ、気付かなかったんだ。
お前が惚れているその相手こそが、
俺だったなんてーーー