久遠の空 ドリーム小説 2012年拍手文 二月 その2

お前への不満×20    3.美化した俺のイメージを周りに言うな

「副長の鬼! 人情なし!」神谷の甲高い声が副長室の外まで響き渡る。
そしてばあんと障子を乱暴に開け放つ音と、廊下を踏み抜かんばかりに荒々しい足音が続いた。

「ったく、ガキが」
俺は盛大なため息をつく。お前はそんな俺にちらりと視線を寄越した。


島原に不逞浪士が潜伏しているとの情報が監察から上がってきたんで、非番の隊士たちを寄せ集めて急遽向かわせた。
通報通りに浪士がいて、取り逃がすことなく捕まえたまではよかった。

相手がかなり暴れたらしく、捕縛する際店の入り口に飾ってあった壺にぶつかり、壊してしまったらしい。

「あのぅ…」
と店の主人が青ざめながら、捕縛した浪士を連れて出ていこうとした隊士たちを呼び止めて語ったところによると。
その壺は唐渡りの代物で、たいそうな値打ちものなんだそうな。

同じものはもう手に入らない、それは諦めるが、早い話が弁償してくれってことだった。

金額を聞き、その高さに出動した隊士たちは目ン玉ひんむいた。
その場にいた頭数で割っても、平隊士どもにゃあしばらく遊びに行けねえ額だ。



時々、捕縛中に暴れすぎて、舞台になった店や町家の主人どもからやんわりと注意を受けることがある。
会津藩からもだ。
誰か告げ口してる奴がいる。
俺たち新選組は、町の治安を守ってやってるのによ。


…で、戻ってきた隊士から話を聞いた神谷が、隊務中に起きたことなんだから、隊で金額を負担してくれるよう掛け合いに来たわけだ。

そんなの払う必要はねえ。だいたい、そんな高価な代物なんだったら、蔵にしまって鍵でもかけとけってんだ。
今からでも店に行って断ってこい、それが駄目なら手前らで何とかしろと言ったら、鬼だの人情なしだのと罵られた。
鬼で結構、人情なんて、隊務には邪魔だ。


視線に気づいてふと目をやる。
「何だ」
何故お前は俺をじっと見ている。

「あの…土方さんのお考えはごもっともだと思うんですけど」

そうかよ。
だったら何も言うこたねえだろ。

「この前、神谷さんと、屯所の裏手にある蔵を整理していたら、花瓶を見つけたんです。
あの蔵にあるものは西本願寺の許可なく処分していいと、土方さんおっしゃってましたよね。
あらかた処分したのですが、その花瓶は洗ってみたらとてもきれいだったので…」

「それをくれてやれってのか」
最後まで聞かなくたって、お前の考えてることぐらいわかる。
「…気持ちだけでも、駄目でしょうか」
お前はこくりと頷いて、窺うような目で俺を見つめた。

駄目じゃねえけどよ。
いちいちそんなの弁償してたら、馬鹿な下っ端どもが、捕物の最中に気兼ねなく暴れるかもしれねえじゃねえか。
それに、今回はたまたまあるからいいかもしれんが、この先何度も同じようなことが起きたらどうすんだ。

お前はただ、俺の返事を待っているだけなんだろう。
俺がお前の要求をはねつけることも予想済みで、な。


「そんな花瓶、とっとと処分してこい。俺は知らん」
腕を組み、俺は言い切った。




数日が経ったある日。
壺を壊された店の主人から馬鹿丁寧な礼状が来て、酒樽まで届けて来やがった。
お前らの仕業か。お前と神谷の。
即刻副長室に雁首揃えやがれ。


「どういうことなのか、説明しろ」
神谷は突きつけられた礼状を見て笑顔になっている。
その横で、顔色一つ変えないお前が口を開いた。

「あの花瓶、実はたいそうな舶来品だったようで」
「で、それが何であの店に渡ってんだ。処分しろっつっただろうが」
「処分しました。あのお店にお渡しすることで」
「あ?」
ますます意味がわからなくなり、俺はお前を睨みつける。

「“とっとと処分してこい。俺は知らん”って、
土方さんの知らないところでなら花瓶をあのお店に渡してきていい、ってことですよね?」


…待て、何故そういう解釈になるんだ?


「おおっぴらには出来ないけど、こっそりとなら、今回だけは助けてあげようって意味なのかと」
「なあんだ、そう思ってるなら言ってくれればよかったのに」

おい、完全に話の方向が間違ってるじゃねえか!
そんな風に思ってなんかねえっつうの!

「神谷さん、土方さんは副長なんですから、お目こぼしも堂々とは出来ないんですよ」
「うわあ、裏から手を回すなんて、ある意味副長っぽい〜。
これが沖田先生の言う“素直じゃない”ってやつですかね!」
「ね、土方さんだって人情無しってわけじゃーーー」


頭痛がしてきた。
何でこうなる?
目の前で二人がぺらぺらくっちゃべっているのが頭に響く…。