お前への不満×20 13.夢と同じこと言ってんじゃねえ
「夢で同じ場面を見ました」
と、お前が夢の中で言った。
はっと気がついて起きると日が昇りかけたところだった。
「あ、おはようございます…」
と隣の布団でお前が目をこすった。
井戸端で顔を洗いながら、俺は見ていた夢の内容を思い出した。
お前と二人で小さな部屋に入っていて、何かを手に取る。
その時にお前が、夢で同じ場面を見たと言ったんだ。
何を手にしたのかは思い出せねえ。
…何だったんだ。
それ以上は気にせず、朝餉をとって仕事を始める。
しばらくすると、部屋に平の隊士が来て、花屋の来訪を告げた。
お前は立ち上がって隊士と一緒に花を受け取りに行った。
部屋に生の飾り物がないのは殺風景だからと、
お前は幹部の部屋に花を置くことを提案した。
定期的に花屋に届けてもらうようにしてあり、
お前が受け取って幹部の部屋に活けることにしたんだっけな。
応接の部屋や近藤さんの部屋の花は大きく、見栄えがするように活けてある。
対して俺の部屋はこじんまりと控えめに。
後はそれぞれの好みを聞いてやれ。
そうしろと言ったのは俺だ。
来客を迎えることの多い部屋は豪華にしておくべきだ。
だが俺の部屋は俺が執務に集中しやすいよう、
あんまりうるさすぎるものはお断りだ。
その辺を踏まえ、お前は実に巧みな活け方をしているようで、
誰に聞いても評判は悪くねえ。
いつも俺の部屋は最後だ。
でかくなくていいから、俺は残った花や葉でいい。
お前はいつも通り残り少なくなった花や葉を抱えて部屋に戻ってきた。
「うーん…」
花瓶に花を入れたお前が、何かつっかえるような声を出した。
「どうかしたか?」
「持ってくるのが少なすぎたみたいで、花瓶と合わないんです」
少し困ったようなお前の手元を見ると、
確かに花瓶の方が大きく、花が少ない。
「別にいいだろ。すぐ次の花に取り替えられるんだから」
枯れない程度、色が変わらない程度の頻度で花屋はやってきて、
新しい生花を持ってくる。
僅か数日の間なのだから、そう気にしなくてもと俺は思った。
「ちょっと物置に行ってきます。
確か一輪挿しがいくつかあったはずです」
すっくと立ち上がって、お前は部屋を出て行く。
「おい、待て」
物置は屯所の中でも副長室からかなり遠い。
お前をひとりにするとろくなことがねえ。
俺もついていくことにした。
物置はそう大きくない建物を複数利用している。
そのうちのひとつの物置の扉を開けると、
締め切られた空間特有の、籠もったような、埃っぽいような匂いがした。
「この辺にしまったと思うんですけど…」
時折軽く咳き込みながらお前が木箱を開ける。
しかし目的の一輪挿しがなかなか見つからない。
ここを最初に片付けたのはお前だが、
後から他の隊士たちが無造作に物を突っ込みやがって、
上だの横だのに箱やら物やらが積み重なっている。
「これじゃねえのか」
重さや大きさからいって、ちょうど一輪挿しが入っていそうな
箱を見つけ、お前に差し出してみる。
お前が箱を開けると、中には竹や陶製の一輪挿しがいくつか詰まっていた。
「ありがとうございます、これです」
お前はにこりと笑って俺を見上げた。
自分で見つからない物がやっと見つかって嬉しかったのか、
久しぶりに見るお前の笑顔が深くて、俺は不覚にもどきりとした。
「あれ…」
お前がふと口元に手を当てる。
「どうかしたか?」
俺は口元を引き締める。
「あの、こんなこと言ったらおかしいと思われるかもしれませんけど…」
ためらいながらお前は言う。
「夢で同じ場面を見ました」
「あ?」
俺の頭の中に、今朝見た夢が再び現れた。
そう、ちょうどこんな風だった。
朝は思い出せなかったが、今はわかる。
お前が手にしていた何かは一輪挿しだった。
お前も、俺と同じような夢を見ていたのか?
信じられない思いでお前の目を見る。
その拍子に、適当に積まれていた箱に肩が当たり、均衡が崩れた。
「あっ」
「危ねえ!」
俺はとっさに箱を支えた。
ぐらつく箱を押し戻し、俺は息を吐く。
たいした重さではないが、角が顔にでも当たったら間違いなく怪我をする。
これ以上お前に傷などつけてたまるものか。
「ありがとうございました…」
目を開けてお前を見下ろすと、やはり怪我をすると思ったのか、
身を小さくして俺にくっついていた。
俺がお前の夢の中に出てきていた。
そして似たような夢を、一緒に見ていた。
そう思ったら、何だか無性に欲しくなって。
唇に軽く触れてみた。