お前への不満×20 12.交友範囲広げろ俺以外見るな
朝の爽快な空気の中、縁側に向かって座る。
目の前には鏡台があり、丸い鏡の中に自分の姿が映る。
「失礼します」
とお前が俺の後ろに膝立ちになった。
そして肩の先まで長く垂らした俺の髪を取り、
手早く髪をまとめ始めた。
いつだったか忘れたが、
冗談半分でお前に髪結いを頼んだら、
えらくヘタ…いや、不格好に作ってくれた。
滅多に表情を崩さないお前が、
あれほど真っ青になって黙りこくったのは
初めてだったんじゃねえか?
その日は髪結床が来ていたんで、
(だから俺もお前に頼んだんだが)
髪結いに結い直させて事なきを得たんだった。
それ以来お前は、髪結床が来る度に、
上手に結うためのこつを聞いたり、
組の中でも自分で結っている奴に話を聞いたりして、
少しずつまともに結えるようになってきた。
今じゃすっかり出来るようになりやがって、
毎回頼めるぐらいにまで上達した。
まあ、俺から頼んだわけじゃねえ。
お前がやらせてくださいって言うからだからな。
総髪で月代は剃っていないから、
ただ髪を後ろで結い、髷にするだけだ。
だがお前はそれを至極丁寧にする。
髪を引詰め、元結いできつく縛り上げて、
鬢づけ油で固めて髷を作る。
左右両側から出たおくれ毛を、
手に残った油で一本一本撫でつける。
鏡越しにみるお前の目は、真剣そのものだ。
お前が髪結いについて聞き回っていた時、
随分と多くの野郎どもが周りに集まっていたな。
で、その後、お前を通して、下っ端どもから、
俺にいろんな嘆願が上がってきた。
その嘆願の中には、普段俺には聞こえることのない、
下っ端どもの本音や、なかなかの意見が混じっていた。
お前が無理に嘆願させたんじゃねえ。
お前を通して意見を届けられると思って、
皆はそうしたんだ。
お前にそんな力があるなんざ、
夢にも思わなかった。
が、組の中の実状を知っておく上で、
お前のその力は意外と悪くねえ。
だがな。
お前を見る目の中には、
やらしい目つきの奴もいたんだ。
そこんとこ、わかってんのか?
髪結いを続けるお前の目の中には、
俺だけが映っている。
それでいい。
余計なものは映すな。
その目には俺だけを映していればいい。