久遠の空 ドリーム小説 2011年拍手文 十月

十一月:〜煙草と五の情景〜 其の四 灰が落ちるまでの沈黙



障子の向こうから薄い朝日が射し込んできて、は目を覚ます。
「あっ…ちょっと…遅かったかな」
いつもは朝日が昇る少し前に目を覚ますのにと、急いで布団をはねのけた。
「寒い…」
体が縮こまる。
寝過ごしたのはこのせいだろうか、空気が冷たい。
は白い息を吐きながら納戸を開けて、自分と土方の綿入れを取り出した。


「土方さん、起きてください。朝ですよ」
は隣の布団の膨らみに手を添えて、そっと揺すった。
返事がない。
「土方さん」
はもう一度揺すってみた。

「…もう朝か?」
土方が細く目を開ける。
「はい、起きてください」
会津藩や故郷へ報告の書状を書いたり、届いた書状への返事を書いたり、
組内から上がってくる問題を処理したりと、土方の仕事は多忙を極める。
ゆうべもが先に寝てしまい、いつまで土方が起きていたのかはわからない。

本当はもう少しゆっくり寝かせておいてあげたいとは思うのだが、
仕事の量は変わらないので、結局は早く起きて早く取りかかるしかない。
電気がないこの時代、明るいうちに仕事を終えるのは常識なのだ。


土方は布団に手をつき、ゆっくりと体を起こす。
その背にが綿入れを被せる。
土方が綿入れに袖を通すと、は顔を洗いに井戸端へと向かった。

顔を合わせた隊士たちと言葉を交わしながら顔を洗う。
が戻ってくると、今度は土方が顔を洗いに行った。
外をきょろきょろと確認するとは障子をぴたりと閉めて、着替えをし、布団を片づけた。

土方が部屋に戻ってきた。
は朝餉をもらいに再び部屋を出る。
二人分の膳をもらって部屋に入ると、土方も着替えを済ませて座っていた。

は膳を据えるともう一度台所へ行って、急須と湯呑みを持ってくる。
土方は腕を組み、キセルをくわえていた。

湯呑みに茶を注ぐ。
とぷとぷという柔らかい音と、茶の香ばしいかおりが部屋に広がる。

は茶を注ぎ終えて、急須を置いた。
土方の膳に乗せようと湯呑みをひとつ持ち、顔を上げる。



薄く透け、ゆらゆらと上がる煙の向こうで。
すっかり整った身なりに、背筋をぴしりと伸ばし。
堂々と座る、鬼の副長の姿があった。

新選組における恐怖の支配者と、内外で恐れられている姿。
だがには、それが頼もしくみえる。
自然と口元が緩んだ。



「どうかしたか?」
土方は煙草盆にの視線に気づくと、キセルをコンと打ちつけて灰を落とした。
はその音にはっとして茶を出した。

「何でもないです」
「何でもねえわけねえだろ、朝から人様のツラ見てにやけやがって」
「べ…別に、にやけてなんて」
「ま、朝からイイ男のツラ拝めばにやけもするだろうがな」
「自分でいいますか、それ」
「ああ、言う」



土方が喉の奥で笑いながら煙草盆を横に押しやり、湯呑みを手にした。
「さて、飯食うか」
「はい」
も同じように湯呑みを持ち、茶をすする。
舌に触った茶が思ったよりも熱くて、は顔をしかめた。

にやけているだなんて、当てられたのがなんだか悔しい。
顔に出ないよう、しばらくはこのしかめっ面を崩さないようにしようと、は眉間に力を入れた。



 20111101

お題配布元:Fortune Fate様