九月:〜煙草と五の情景〜 其の二 皮肉びた口許で燻る
起床して身なりを整え、朝餉までの短い時間。
局長や副長の元には幹部隊士が挨拶にやってくる。
今朝もそれぞれの部屋に、沖田をはじめ、斎藤、永倉、原田、藤堂、そして井上らが代わる代わるやってきて、今日の行動予定を確認していた。
それが済むと、部屋を訪れる人は途切れる。
土方はやれやれとばかりに煙管に火を入れた。
乾いた香りが室内に漂う。
煙を吐き出す主の横顔を見ながら、は出かける支度をはじめた。
懐に財布、懐紙、物騒であるが短筒。
そして、携帯電話を入れようとして、手を止めた。
携帯を開き、電源を入れる。
は慣れた手つきで操作し、あの写真を呼び出した。
自分と土方とで撮った、たわむれの写真を。
いつまでも電源の切れない携帯電話。
その中に保存してあるこの写真は、折に触れいつも自分を助けてくれる。
たとえ隣にいなくても、頼りにしたい面影がそばにある。
そのことがどんなに自分を勇気づけてくれただろう。
は安堵の笑みを漏らした。
「お、それか」
後ろから、ひょいと土方がのぞき込んできた。
「わっ、土方さん、脅かさないでください」
は驚いて携帯を取り落としてしまった。
「ずっと同じ部屋にいるのに、脅かすも脅かさないもねえだろうが」
土方は煙を向こうに吐いた。
「ところで、それ」
と土方がの手に戻った携帯を指さす。
「はい」
「前に一緒に写ったやつだろ?」
「はい」
「気に入らねえから撮り直せ」
は写真を再び見る。
写真の中の土方は、写真を撮られるということを理解していないような、頭の上に疑問符を浮かべている顔だ。
だが別に変な顔をしているわけではない。気取りのない、ごく普通の表情である。
(撮り直す必要はないと思うんだけどな…)
そう言おうと思い、が土方に視線を移すと。
土方は、写真を撮られるつもりで格好をつけていた。
煙管の吸い口をくわえ、火皿を少し持ち上げて。
片方の口元が小気味よく上がって。
ほのかに薄い煙が漏れて。
立て膝をしたところに肘をついていた。
はシャッターボタンを押さずに、ぱたりと携帯を閉じた。
「何だよ、撮らねえのかよ」
土方がを睨む。
「…出かける時間になりましたので」
は懐に携帯をねじ込むと、ほかの荷物を持ってばたばたと部屋を出て行った。
は廊下を走ってゆく。
(やだ、土方さん…)
は真っ赤になっていた。
キセルを脂下がらせていた土方の、なんと絵になることか。
まるで役者絵のようではないか。
(普段見慣れているはずなのに、格好をつけただけであんなに…)
いつも以上に男前なんて。
事あるごとにそんな写真を眺めていたら、見とれてしまって、勇気づけられるどころではなくなってしまう。
は携帯の電源を切り忘れていたのを思い出し、携帯を開くと素早すぎる動作で電源を切った。
「なあおい、撮らねえのか」
「撮りません」
その後、土方は何度もに撮り直しをせまった。
が首を縦に振ることは、ついぞなかったという。
20110901
お題配布元:Fortune Fate様