俳優(わざおぎ) 5
翌朝もは早くから乗馬の練習をしていた。今日は土方が教える日になっていた。壬生寺の境内に馬を引いていき、が一人で乗り方降り方の復習をした。
それから二人で馬上の人となった。
「いいか、今から言うことよく聞いとけ」
土方はの後ろに座って手綱を握ると、馬を操作するこつを教え始めた。
はその顔をじっと見つめる。
ゆうべ神谷から言われた言葉がぽんと頭に浮かんできた。
(素敵なコイビトもいるのにー)
違う。そんなのじゃない。自分にとって土方は、そして相手にとって自分は――――――
「テメェ、聞いてんのか」
土方が眉を顰めてを睨みつけた。
「人が折角教えてやってんのに、やる気ねえんなら教えねえぞ」
「あ、す、すみません」
ははっと我に返って視線を定めた。何を余計なことを考えているのだろう、人から何かを教わっている最中にと心の中で己を叱咤する。
「もう一度お願いします」
「ああ」
は土方に軽く頭を下げて乞うた。土方も頷き、再び同じことをに伝えた。
土方の教えを受け、しっかりと手綱を握って馬腹をそっと足で押す。馬は静かに歩き出した。
「背を丸めるな」
土方はの耳元で指示を出す。
「はい」
はその低い声を聞きながら言われるままに手綱を操作し、馬を右や左に向けて進行方向を変えて歩かせた。
しばらく歩行をさせ、が乗馬の感覚を掴んできた頃に今朝の練習は終わりとなった。
「じゃあここまでにするか」
「はい、ありがとうございま」
礼の言葉を口にしながらは振り返った。
すると、予想以上の近距離に、土方の顔があった。
土方の顔が朝日の逆光の中に浮かび上がる。
特に整えているわけでもないのに端正な形を保った眉と、涼しげな目元が視界に入った。
額に散った前髪が緩やかな風を受けて揺れる。
引き結んだ少し厚めの唇が、やたらに近く感じられて。
とくり。
は自分のどこかから、何かの音を聞いてびくりとした。
何の音だろう。
こんな音、知らない。
「あっ!」
急に馬が低くいななき、体を震わせた。
はそれまで保っていたはずの均衡を崩し、馬から落ちかかった。後ろに座る土方が辛うじて彼女の体を抱えた。
「馬鹿が、ぼけっとしてんじゃねえ!」
土方はを怒鳴りつけた。
「す、すみませ…」
冷や汗をかきながらは手綱を握り直した。
馬の背は下から見上げるよりもうんと高い。乗ってみるとその高さに足が竦む。その高さから落ちたらどうなるかは容易に想像できるのに。
「落ちなかったんだからまだいいが、これが走ってる馬の上から振り落とされてみろ、怪我じゃすまねえぞ」
「…はい…」
土方は説教をしながらの後頭部を小突いた。
は顔を前に向け、鐙から足を外して慎重に馬から降りた。
地面に下りたは、とくりとする音がどこから聞こえてくるのかに神経を集中させた。
自分の、心臓辺りから音がしている。
と同時に顔がほのかに熱いのにも気が付いた。
何故なのか。
はその原因に心当たりがない。
ただ、今は土方と目を合わせることができない。
「熱でもあんのか? 顔赤いぞ」
土方がの額に手を伸ばした。
その影が視界に入った瞬間、は己の手でそれを払いのけた。
「っ」
「あ」
ぱしりと音がして、土方の手が打たれた。
「す、すみません。ありがとうございました」
「ああ」
は馬の轡を取って足早に壬生寺の門をくぐると前川邸へと戻って行った。
胸の中に何かが溜まってきている。
はっきりさせればいいのに、それが出来ない。
したくない。
シテハ、ナラナイ。
は無意識にぐっと着物の合わせ目を掴んだ。
は早めに前川邸を出て黒谷へと向かった。
途中で四条河原に立ち寄り、一座の座長とお豊に挨拶をした。ゆうべ食事をおごってもらい、小さい座敷ながら芸までみせてもらったことへの礼であった。
そして折角誘ってもらったが、仕事があるので今後の芝居には行けそうもないことを伝えた。
「そうですか、残念です」
お豊は肩を落とした。
「また京に来て興業を打つこともありましょう。その際は是非に」
と座長が続けた。
「はい」
その時、自分はもう元の時代に戻っていないかもしれないが、とは心の中で呟いたが顔には出さなかった。
はどうぞお元気でと別れの言葉を口にすると、足早に黒谷へと向かった。
振り返らずに鴨川に沿って北へと歩く。
藤雄と鷹之助の姿が見えなかったが、きっと稽古中だったに違いない。
顔を合わせなくてよかった。特に鷹之助とは。彼が昨日、別れ際に言った一言が心に引っかかって仕方がなかったからだ。
惚れた女子の為ならば。
何故この一言が引っかかっているのか、未だにわからない。鷹之助の顔を見たらそれがわかってしまいそうな気がして…怖い。
は胸のうちを曇らせたまま、金戒光明寺の三門をくぐった。
英吉利語の授業が行われる宿坊に入ると、は隅から隅まで箒で掃き清め、机を出した。
そして講師のハーバーをはじめ全員が揃うと昨日の無断欠勤を詫びた。誰も怒ってはいなかったが、表向きは体調不良で欠席が少なくないのことを
皆が心配していた。
午前の授業が終わり、昼食を済ませるとは厩から馬を借りてきて練習を始めた。今日は午後から剣術の稽古があるので時間はわずかしかないが、
どんなに短い時間でも地道に稽古をするしかない。
教えてくれる石井はまだ食事中だった。は石井が来るまで一人で練習しようと思い、今朝土方から教わったことを思い出しながら馬の背に乗った。
「えっと…」
手綱を握るとは土方の言葉を頭の中で反芻した。
が、振り返った時に彼の顔が近くにあったのまで思い出してしまった。
(何?)
かあっと頬が熱くなる。
思わず手綱を強く引いてしまった。
その瞬間、馬が嫌がって前足を上げて。
「あっ」
は手綱を放してしまい、宙に浮いた。
日が落ちて周囲は暗くなり、前川邸にも夜を過ごすための明かりが灯った。
は土方の部屋の縁側に座り、右腕を覆う白い包帯を見つめた。
包帯が見えないように袖を伸ばすと、短いため息をついた。
は馬から落ち、すぐに駆けつけた石井の手によって馬は轡を取られておとなしくなった。
体を起こそうとは地面に手をついたが、右腕に痛みが走るのに気がついた。
石井がすぐに藩医がいるか確認してくれた。すると折りよく清和殿にいるとわかったので、大方丈に隣接するそこへと赴いた。
お抱え医師の南部精一郎が部屋の隅に座し、の腕を診た。
「少し捻っただけですから心配は要りません。膏薬を貼っておきましょう」
二、三日もすれば痛みは取れますと南部は言い、手際よく膏薬を貼り付けると包帯をきゅっと巻いた。
「たったこれだけで済んだのですからよかったとは言えますが、武士ならば馬から落ちる失態は今後ないように」
と南部は医者らしく丸めた頭を傾げて笑った。
情けないの一言に尽きる。
今まで土方に斉藤に、そして英吉利語を学ぶ面々に教えてもらっておきながら乗馬がちっとも上達していない。
それどころか、今朝土方に落ちたら危ないと説教されたばかりだ。今、土方は他出していて部屋にはいないが、戻ってきて落馬したことを話したら
きっと冷めた目つきで見られるに違いない。
「駄目だなあ…」
は思わずぽつりと呟いて、立てた膝の間に顔を埋めた。
「何が駄目なんだい?」
とその時、後ろから声がした。は顔を上げた。
「…山南副長」
聞かれていた、と思うとは恥ずかしくなって山南から目を逸らした。
「すまん、ちょっと邸内を散歩しててね。今日は体調が思わしくなくて外に出なかったものだから」
苦笑いをしながら山南はに近づいてきた。
「大丈夫ですか?」
は気を取り直して居住まいを正すと山南を見上げた。
「ありがとう、大丈夫だよ。隣に座ってもいいかな?」
「どうぞ」
断る理由も見当たらず、は山南の申し出を受けた。
鋭い刃物で真ん中を切られたような半月が、白くたなびく雲の合間から光を放っている。山南とはしばし黙ってその光を受けていた。
「その腕はどうしたのかな?」
山南が徐に口を開いた。
はふと自分の右腕を見遣った。いつの間にか袖が捲くれて包帯が見えていた。
「馬から落ちて捻りました」
は袖をまた直して、淡々と事実だけを言った。
「そうか、乗馬の修練か」
ふふっと山南は笑った。
「恥ずかしながら」
は表情を崩さずに答えた。
「いや、はじめは誰でも一度くらい落ちるだろう。私もそうだったよ」
山南は膝を立てるとそこに肘を置いた。くだけた姿勢は彼にしては珍しいとは思った。
「それが“駄目だなあ”なのかい?」
山南の問いにはどきりとして視線を下げた。山南は黙りこくるを見てまた笑みを浮かべた。
「何があったのか、聞いてもいいかな?」
以前にも同じようなことがあったような気がするとは思った。そう、確かあれは土方と言い争って気まずくなり、黒谷から戻る時に山南の馬の背に乗せて
もらって前川邸へと帰ってきたときのことだった。
だがは誰にも相談するつもりはなかった。出来ないことは教えを乞うが、悩みを他人に相談できる身の上ではない。別の時代から来て、性別を偽りながらも
こうして普通に生活させてもらっているだけでも充分なのに、悩みを持つなど贅沢もいいところだ。そんなものは己一人の胸のうちにしまっておけばいい。
「自分だけで悩んでいればいいと思っていないかい?」
冷えた夜の空気に山南の声が柔らかく響いた。
「えっ…」
は言い当てられて、思わず山南の顔を見た。
「君が何でも一人で解決しようとしているのはいいことだとは思う。でも、人は一人じゃない。君が密かに悩んでいるのを見て、時には少しでも話して解決したり、
その糸口になったらと思う者もいるんだよ。誰にも言わないから話してごらん」
そう言って山南はの目を真っ直ぐに見つめ返した。
その視線は優しく、空にある月の光のようにの心へそっと差し込んできた。
「…最近、胸がもやもやしてて」
の唇から言葉が漏れ出した。
「何かがつかえてて、でもそれが何なのかわからないんです」
慎重に言葉を選びながら、は山南に話した。
「その正体を知りたいと思うのに、自分でもそれが何なのか知りたいのに、自分の中からそれを知ってはならないと声が聞こえるんです」
は痛みが残る右手に左手を重ね、胸に押し当てた。
「すみません、うまく説明できないんですけど…」
「…うん」
山南は聞きながら軽く頷いた。
「つまり、君は自分の中にわからない感情があって、それが何なのか知りたいけど知りたくないわけだ」
口元に笑みを浮かべながら、聞き手になっていた山南が語る。
「はい…おかしいですよね、自分でもそう思います」
はため息をついた。自分でもわからないのだから、山南だって理解不能に決まっている。自分のことなのにと思われても仕方がない。
だが、山南が続けた言葉は予想とは異なるものだった。
「それでいいんじゃないかな」
「え?」
「それでいいと、私は思うよ。たとえ自分のことだとしても、わからないことはたくさんある。知らない自分を無理に知る必要はない。その代わりに…」
山南は、呆気にとられるに少しだけ近寄った。
「自分の気持ちを感じるんだ。言葉にしたり、その気持ちに名前をつけたりしなくていい。温かいものなのか冷たいものなのか、白いものなのか黒いものなのか、
それだけでいい。そしてそれを大事にしまっておくんだ」
「自分の気持ちを…感じる…」
は山南の言葉を、無意識に繰り返した。
「いつかきっと、それが何なのか分かる日が来る。知らない自分を見つけることが出来ると思うんだが、どうかな」
山南はの肩に手をそっと置いた。
目を見開いて、は山南を見つめていた。
そんな風になんて、これっぽっちも思っていなかった。この気持ちが何なのか知って、心が晴れない原因を突き止めなければならないとばかり思っていたのに。
山南の言葉がの心に吹き付けて、彼女を覆っていたものが晴れていく。
「どうしたんだい? おかしいことを言ったかな?」
山南はの肩から手を離すと頭を掻いた。
「い、いえ、あの…ありがとうございます」
は廊下に手をついて山南に頭を下げた。
「山南副長のおっしゃるとおりです。私は今まで、一人で何とかしなければならない、そればかりを考えていました。でも、今副長にご相談したことで
そうでないこともあると気付くことが出来ました」
「じゃあ、君の悩みは解決したということでいいのかな?」
山南はほっと安堵の息を吐いた。
「はい」
はなおも深く頭を下げた。
「君、頭を上げなさい」
山南は苦笑してを促した。
「そこで何をしている」
廊下の奥から声がした。玄関の方から足音を立てて、土方が歩いてきた。
「…山南さんか」
土方は暗闇から目を眇めて山南とを見た。
「お帰りなさいませ」
は手をついた姿勢のまま土方を迎えた。
「お帰り土方君。では私は退散することにするよ」
山南は立ち上がると、の肩をぽんと叩いて自室へと戻っていった。
「何かあったのか?」
土方は部屋に入ると羽織を脱ぎながらに問うた。
「何も。ちょっと話していただけです」
はその羽織を受け取り、衣桁に掛けた。
「本当か?」
訝しげに土方は振り返った。
の表情を見て、土方は眉を上げた。今朝までの様子とはまるで違う。
土方は、ここ数日の様子がおかしいことに気が付いていた。が、聞き出すことはせずに様子を見ていた。
が何かに悩んでいたり隠していたりしている時はすぐにわかる。それを放っておくべきなのか、強引にでも聞き出すべきなのか。
土方は彼女の様子を観察して今回はどちらなのかを見定めた。放っておいていい悩みだ。彼女の心を惑わせている内容については気になるが、
今回はそれに触らないほうがよさそうだと判断した。
相手にも、もちろん自分にも、個人的な悩みや言う必要のないことはある。土方は、全てを知りたいと思いつつもその踏み込みどころは彼なりに心得ているつもりだ。
が、今日のうちのどこかでそれが解消されたようで、彼女を取り巻く空気が異なっていると土方は感じた。
も土方を見つめた。今朝のように彼と目を合わせられないということはもうない。胸の中を覆っていた雲が晴れ、苦しさもない。
はそっと土方の袖を掴んでみた。とくりと己の胸を打つ鼓動が聞こえる。耳を済ませてその音を探ってみた。心臓の辺りから温かいものが溢れてくる。
「な、何だよ」
突然が自分に触れてきて、土方はたじろいだ。
「…お茶、いかがですか?」
はそのまま土方を見上げた。
山南の言う通りに、自分の気持ちを感じてみた。そしてそれを無理やり探ることなくただ認め、心の奥底に沈めた。
よかった。今は普通に真っ直ぐ土方の目を見て話せる。そう思い、はほっとして笑みを浮かべた。
その視線に土方の胸は痛いほどに跳ね上がった。
ひとつの波もない深い笑顔に、まさか自分の気持ちが通じたのかと勘違いをして。
「…!」
「じゃ、私お茶淹れてきますね」
土方が抱きしめようと回した手をすり抜け、はすたすたと部屋を出て行った。
「…何なんだよ」
何が何だか、一人取り残された土方には全くわからない。とりあえず彼女の雰囲気が和らいだことだけはわかったが、今のは何だったのだろうと首を捻った。
が茶を淹れて部屋に戻ってきた。そして行灯の明かりに照らされながらが馬から落ちたことを話すと、土方はほら見ろと鼻で笑った。
も苦笑いで返した。
千秋楽を迎えた旅の一座は、次の土地へと旅立っていった。後日、黒谷からの帰りに買い物の用事があって四条河原の近くを通ったは、ただの河原に戻った
座の跡を見て、白い息を吐き出した。
たったあれだけの出会いが、ほんの僅かな出来事が、小さな一言が、自分の胸に波紋を起こした。そしてそれが何なのかは未だにわからない。しかし
わからなくても、自分でそれを大事にしまっておくだけでいいと言われ、そのようにしてみた。きっとそれが正しいと信じている。
は微かに口元を吊り上げると、目的の店へと足を向けた。
日は瞬く間に過ぎ、年末を迎えた。
晦日から雪が降った。前川邸の門も、壬生寺の石畳も、島原の見世の屋根も、鴨川の河原も、黒谷の巨大な三門もすべてが白く雪の衣をまとった。
大晦日である今日も、ぼたん雪がしんしんと降り続いている。
「寒いな」
自室で火鉢に当たりながら土方は背を丸める。
「そうですね」
も同じ火鉢の反対側から手をかざしている。
ゴーン、と鐘の音が聞こえてきた。
「除夜の鐘ですかね」
は障子を見やった。
「ああ、そうだな」
きっと壬生寺で撞いているのだろう、大きな音が聞こえてくる。
「土方さん」
が火鉢から手を離して座り直し、畳の上に手をついた。
「今年は大変お世話になりました。来年もどうぞよろしくお願いします」
「何を改まってんだ、今更」
急に丁寧な挨拶をされ、土方はそっぽを向いた。
「何もお返しできずに申し訳ないんですけど」
は頭を上げた。
「…」
そのを土方はじっと見つめた。
「それは何でもいいのか?」
「お返し、ですか?」
「そうだ」
「…場合によりけりですけど」
無理難題を押し付けられることはないと思うが、自分に出来ることなどほんの少ししかない。はそう思うと襟を正した。
「じゃあ、俺に許嫁の話はするな」
土方は火鉢の灰をかき混ぜながら言った。
「はい?」
は首を傾げた。
「お前は時々俺に許嫁がどうのと言うが、俺にはあいつと一緒になる気はねえとその度に言ってきた筈だ。今後一切、許嫁の話を持ち出すな」
いいな、と土方は念を押して立ち上がった。
「土方さん?」
「これ以上の質問は許さん。俺は厠に行ってくる。布団の支度をしておけ」
見上げるの言葉を打ち切ると土方は廊下に出て行った。ひゅうっと冷たい空気が開いた障子から入り込み、は身を縮めて口を閉じた。そんなことでいいのかと聞きたかったが、質問は許さないと言われた手前、もうこれ以上聞くことは出来ない。
はゆっくりと立ち上がると、土方に言われた通りに布団を伸べた。
除夜の鐘が、雪で白くまだら模様になる空に響き渡る。は布団に潜り込んでその音を聞いていた。
人に巣食う百八つの煩悩を打ち払うために除夜の鐘が撞かれるのだと、どこかで聞いたことがある。除夜とはそういう意味だったのかと今初めて気がついた。
日本人なのにこんなことも意識していなかったとは、と思わずくつくつ笑ってしまう。
「何だよ、気持ち悪いな」
隣の布団で土方が怪訝そうに声を上げた。
「すみません」
は笑いをかみ殺しながら謝った。
説明できない現象で過去に飛ばされてしまった今年。幸いにしてこの時代に適応出来て、無事に新たな年を迎えることが出来た。
来年はどのような年になるのか。そして元の時代に戻ることは出来るのか。
鐘の音が今年の出来事全てを浄化してくれるような気がする。
どうか来年も無事に過ごせますように。
願いを込めてはそっと目を閉じた。
はいつの間にか眠りについていた。
百八つ目の鐘が鳴った時、隣で眠る男がその手をそっと握るのに気付きもせず、安らいだ顔つきで。
20081211
本章の参考文献:
『面白いほどよくわかる歌舞伎』 宗方翔 日本文芸社 2008年
『カブキ101物語』 渡辺保・編 新書館 2004年
『團十郎の歌舞伎案内』 十二代目市川團十郎 PHP新書 2008年