選ばれざるもの 8
翌日、芹沢をはじめとする新選組一行は大坂から京都へと戻ってきた。
芹沢はお梅へのいい土産が出来たと喜んでいたが、近藤たちは正反対の面構えだった。
会津藩に今回は必ず芹沢を処分すると言って大坂へと旅立ったのに、逆に暴れさせて帰ってきてしまった。
近藤と土方は、平山・永倉・斉藤に芹沢を必ず前川邸まで連れて戻るように言い、黒谷へと出向いた。
黒谷では公用方筆頭の野村が待ち構えていた。が、知らせを聞いて憮然とした表情になった。
「今回こそはと言ったのはお主らのほうだぞ」
鋭い音を立てて、野村の持つ扇子が閉じられる。
「しかも商家の者をそんなひどい目に合わせて帰ってきただと?だったらその場で斬ってしまえばよかったではないか」
野村の言うことももっともである。
近藤と土方は平伏したまま黙っていた。
「・・・で?」
野村は扇子を開き、まだ夏の暑さが残る空気を扇いだ。
今後はどうするつもりなのだと、野村は言いたいに違いない。
芹沢を処分するのかしないのか、新選組の看板を下ろすのか下ろさないのか。
道は二つに一つ。
「もう一度、お力をお借りできませんでしょうか」
近藤の隣で土方が言った。
「吉田屋での資金を出させておいて失敗しておきながらか?」
大坂吉田屋での代金は、芹沢を処断するからと言う名目で土方が会津藩から引き出した金だったのだ。野村にしてみればまたかと思うのも当然だ。
「はい。それと」
「まだ何かあるのか」
「恐れながら。どこか揚屋を押さえていただきたいのですが」
土方の言葉に、野村はぴくりと眉を上げた。
「揚屋をか」
「はい。新選組全員が席を設けられ、それなりの格式があるところを、会津藩の御名で」
「何故に藩名を使う」
「藩の名を出し、この度の大坂行きへの労いと、新選組拝名、新見追悼の宴の名目で全員を集めます。そうでなければ芹沢は乗ってこないと思われます」
土方は筋道を立てて、己の頭の中にある計画を説明した。
大坂で芹沢は会津藩が設けた席を一蹴した。それにこれだけの理由を乗せれば芹沢とて断りはしないだろう。全ては確実に獲物を引っ張り出して罠に掛けるための餌だ。
「それで本当に大丈夫なのか」
野村の目が光る。
「お任せ下さい。今度こそ」
土方はそう言って深々と頭を下げた。近藤も気配を読んで同じく頭を下げる。
「・・・よかろう」
野村は扇子を再び閉じて、懐にしまった。
「すぐに手配する。・・・今度こそと言うその言葉、しかと聞いたぞ」
徐に立ち上がり、野村は席を辞した。
近藤も土方も、畳に低く平伏しながら同じ事を思った。
今度こそ成し遂げなければ、新選組は会津藩から見放されてしまう。
背水の陣。
ここが正念場だ。
近藤と土方は前川邸に戻った。幹部たちが揃って出迎えた。
山南が新見の埋葬を留守中に取り計らっておいたので、まず壬生共同墓地へと向かった。
まだ墓石は置かれておらず、新見の名前と死亡した日が書かれている板が立っているだけだった。
近藤たちはその前で線香を手向け、手を合わせた。
再び前川邸に戻り、山南と井上、沖田、原田、藤堂と座を持った。
永倉は肩の傷がかなり痛んでいるらしく伏せているし、斉藤は芹沢を八木邸に送り届けてから黒谷へと向かった。
大坂での顛末を報告すると、留守を守っていた面々は顔色を変えた。
「まさか・・・いや、あっても当然と言えば当然だが・・・」
山南は信じがたいが容易に想像できる光景に冷や汗を流した。
「仕方がねえ野郎だなあ」
原田が軽い口調で言った。
「芹沢さんが・・・そこまで」
藤堂はぽつりと呟いた。
井上と沖田は黙っていた。
報告が終わると、皆はそれぞれの持ち場に戻った。
近藤の部屋には近藤と土方、山南と井上が残った。
「こっちはどうだった」
土方が山南に視線を向けて聞いた。
「それがこちらでもちょっとあってね」
山南はから聞いたことを伝えた。土方の部屋に誰かが侵入した形跡があったこと、夜中に人影が現れたこと。
「そうか」
土方はそれをさらりと流した。
「心配じゃないのかい」
山南は聞いた。
「部屋に大事なものは置いてねえ。探られたところで痛くも痒くもねえさ」
土方は事も無げに言った。
「いや、そうじゃないよ。君のことだ。もし深夜の人影に何かされたら」
山南が言いたいのはそちらの方だった。執務を全てこなしてすぐ自室に戻ってしまったのは今考えたら失敗だったと思った。局長も副長の片方もいないとあれば、万が一のことを考えるべきだったのに。
「いいじゃねえか、あいつは無事だった。それだけだ」
ふいと土方は山南から顔を背けた。
「土方君・・・」
「それより山南さん、今度こそ奴をやらなきゃなんねえ」
土方は居住まいを正すと本題に入った。
「今度こそ、奴を始末する」
日が落ちた時分になっては前川邸へと帰ってきた。
「土方さん、山口です。ただいま戻りました」
障子の外の影がしゃがみ、中に向かって声を掛けた。
「ああ」
自分の部屋に戻っていた土方が返事をすると障子が開き、が入ってきた。
「近藤局長にお渡しするものがあるので行ってきます」
は荷物を置くとすぐに部屋を出て行き、隣の局長室に入っていった。
局長室へ入る伺いの言葉が聞こえ、近藤の返答で彼女が中に入る音がした。
ぼそぼそと二、三の言葉を交わす声がして、再び障子が開いて閉じるのが小さく聞こえた。
「失礼します」
と言ってが土方の部屋へと戻ってきた。
「土方さん、局長がお呼びです」
「ああ」
の言葉に土方は立ち上がった。
「あの」
横を通り過ぎようとした土方に、が声を掛けた。
「戻ってきたらでいいんですけど、お話が」
土方はを見た。表情が些か強張っているように見える。
「昨日のことか」
「えっ」
土方の言葉にははっと顔を上げた。
まだ話していないのに、どうして。
「山南さんたちから聞いた。何事もなくてよかったな」
そう言って土方はの頭にぽんと手を置いた。
「?」
の頭が濡れている。
「雨か」
「はい、僅かですが」
ふと外に目を向けると、音もせずに微かな雨が降り出していた。
「土方さん・・・」
「詳しいことは後で聞く。山南さんを局長室へ寄越してくれ」
まだ何か言いたげなを残して土方は近藤の部屋へと入って行った。
土方が中に入ると、予想通り近藤が書状を広げて読んでいた。
「トシ、君がこれを」
そしてその書状を土方に手渡した。
公用方筆頭の野村からのものだった。土方が頼んだ通りに揚屋を押さえたと書かれていた。明日の夜、島原の角屋を。
角屋とは島原にある揚屋である。芹沢は以前に角屋で遊んでいた際に、仲居の態度が悪かったとかの些細なことで機嫌を損ね、見世の食器や壁などを散々に打ち壊したことがあった。
そして何の権限もないのに、勝手に七日間の営業停止を申し付けたのである。見世の主人、角屋徳右衛門からは苦情を記した長い書状が会津藩に届けられていた。
角屋は七日間の間に全てを元通りに直して営業を再開した。商家の意地だった。
直近で、人数が収容できる揚屋はそこしか空いていなかった。野村が嫌がる角屋に金を積んで頼んだということが遠まわしに書かれていた。
書状の墨跡に丹念に目を通しながら土方は覚悟を決めた。
明日の夜。
これが本当の意味での新選組誕生の夜だ。
山南が近藤の元へとやって来た。
密談が始まった。
は風呂に入り、布団を敷いて横になった。
土方はなかなか部屋に戻ってこなかった。自分が持ってきた書状にそんな重要なことが書かれていたのだろうか。
細く障子を開けた隙間から雨に煙る池を眺める。次に光るであろう日時を聞いてからは今すぐ光ることはあまり期待出来なくなったが、それでも眺めずにいられない。
障子の隙間が一瞬黒く陰った。
「・・・?」
がその原因を確かめようと目で行き過ぎる影を追う。
柔らかく揺れる結い上げた髪。
沖田の影だった。
沖田は近藤の部屋に入ったようだ。
近藤の部屋から誰も出てこない。
きっと大事な話をしているに違いないとは思い、目を閉じた。
「今夜は宴席だ。お前も黒谷からの帰りに島原に来い」
翌朝、が目を覚ましたときにはもう土方は起きて身支度を整えていた。
「島原ですか?」
「ああ、角屋という揚屋だ」
「どの辺りでしょう」
は島原には一度迷子になって紛れ込んだだけで、実際に中を歩いたことはなかった。その時芹沢に壬生まで連れて帰ってもらったことが脳裏に浮かんだ。
「大門の場所はわかるな?そこからの地図を書いてやるからそれを見て来い」
「はい、お願いします」
が布団を片付けている間に土方は地図をさらさらと書いた。
「ありがとうございます」
「ああ」
土方はに地図を渡した。と同時に、書状を一通差し出した。
「これを野村様へ届けてくれ」
「かしこまりました」
は地図と書状を受け取ると、黒谷へ持っていく荷物の中へとしまい込んだ。
身支度を整えに行こうと思い、障子を開けた。
外は雨だった。
「雨・・・」
何気なくは呟いた。
湿った空気が体を取り巻く。天からの雫が葉を間断なく揺らしている。
空気が、重たい。
夕方になり、はいつもより早く授業を切り上げた。
土方から預かった書状を野村へと渡した際に、野村から今日は早く退席してよいとの通達があった。
まだ授業を続けるハーバーと他の生徒たちを残して、は島原へと赴いた。
雨は昼食時に一度止んでいた。が黒谷で支給された昼餉を取りに行こうと英吉利語の授業が行われている塔頭を出た時には、
青空こそ見えはしなかったが傘の必要はなかった。
しかしだんだんとまた雲が厚くなり、しとしとと降り始めたと思ったらすぐ土砂降りに変わった。
なるべく濡れないように傘をうまく差しながらは島原の大門の前に来た。
門の前で土方からもらった地図を出そうと懐に手をやった。黒谷に行く時には手荷物の中に入れたが、黒谷を出る際には取り出しやすいように懐に入れ直したのである。
「あっ」
が、手から紙が滑り、せっかく書いてもらった地図が水溜りに落ちてしまった。
「・・・」
やってしまった。誰かに道を聞かねばならない。
(確か、角屋さんって土方さんはおっしゃってたと思うんだけど・・・)
は辺りを見渡した。人影はあるし、見世も開いている。聞くことは出来そうだ。
ばしゃりと水を踏んで、は門をくぐった。
「山口ではないか?」
入ってすぐに自分を呼び止める声がした。
後ろから聞こえてきた声に振り返ると、芹沢がいた。
「芹沢先生」
「やはり山口であったか。また迷子か?」
芹沢は傘を肩に据え、笑いながらに近づいてきた。
「はい、残念ながら」
は正直に答えた。
「角屋に行くのであろう?わしも今から出向くところじゃ。共に参ろうぞ」
「お願いします」
は傘を傾げて芹沢に頼んだ。
芹沢には近づくなと斉藤から言われているのを忘れたわけではない。芹沢たちと共に沖田と神谷が同行していた。彼らと一緒なら大丈夫だ。
「また、って何ですか?さん」
神谷が傘の向こうから話しかけてきた。
「以前黒谷から帰って来る時に迷ってここまで来てしまったのを芹沢局長に助けていただいて」
は素直に白状した。
「へーえ、さんでもそんなことあるんですね」
「お恥ずかしい限りですが」
神谷にからかわれては傘で顔を隠した。一応大人の部類に入るはずなのに迷子など恥ずかしいのひと言に尽きる。
神谷や沖田と話しながら歩いているうちに角屋に着いた。
は芹沢に礼を言って離れると、神谷たちと共に中に入った。
案内に従って部屋へと上がると、もうほとんどの隊士がその場にいるようだった。
雨の中、新選組が発足してから初めての大宴会。雇い主である会津藩の気遣いで、新見追悼と大坂出張への労いも兼ねているとあれば、皆浮き足立つ
のは当然だった。
「やっと来たな」
土方も先に到着しており、の姿を認めると声を掛けてきた。
「はい、お疲れ様です」
は荷物を置き、手拭いを取り出して雫を拭った。
「お前はあっちへ座れ」
と土方は、神谷の隣の席を指差した。は言われるままにそちらへと移動した。
芹沢の挨拶で宴会は始まった。新見の供養でもあるから、存分に騒げと。
多くの隊士たちがに賑やかに酒を飲み、膳を楽しんだ。
も神谷と杯を酌み交わし、新見の死に哀悼を示した。相手が自分にどんなことをしたとしても、供養の気持ちに変わりはない。
幹部たちは芹沢の元に集まって次々と酒を注いでいる。
(・・・何だろう)
はその様子を眺めながら、何かが心に漣を立てるのを感じていた。
言うなれば、勘。説明は出来ないが、何か空気に違和感を感じる。
「どうかしたのか」
斉藤が隣に座った。
「あ、斉藤さん」
は銚子を手に取り、斉藤の持っている杯に酒を満たした。
「何でそんな顔をしている」
「え・・・」
顔に出ているのだろうか。勘だけでしかない、妙な空気を感じていることを。
「いえ、何も・・・ただの勘です」
は銚子をことりと置いて言った。
「・・・その勘を、大事にするがいい」
ごくりと杯を飲み干して斉藤が言った。
「え?」
「そして自分の信じた道を行くがいい」
ぼそりと呟くと、斉藤は再び席を立って別の場所へと移動していった。
(勘を・・・信じた道を・・・?)
斉藤が何を言おうとしているのか正確に把握できない。
が、大切なことを教えてくれている気がして、は斉藤の言葉をしっかりと胸にしまい込んだ。
皆がすっかりへべれけになった頃、芹沢が大いに酔って八木邸へと戻った。
一人では碌に歩くことも出来なくなったため、駕籠を頼んだ。
一人でぼんやりと勘が示すものの正体を探っていたは、気がつくと一人だけしゃんと座っていた。
周りには酔って半裸になった隊士たちがごろごろと転がっている。
(・・・帰ろう)
いつの間にか幹部の中でこの場に残っているのは井上だけになり、近藤や土方、沖田たちの姿も見当たらなくなっていた。
井上に聞くと、土方は先程、芹沢を見送るために玄関へ出たと言う。
は自分も荷物を持って玄関へと下りた。
玄関の外に土方が立っていた。沖田と原田も一緒だった。
「土方さん」
はその背に声を掛けた。
「、帰るのか」
土方は振り向いた。
「はい、土方さんはまだお残りですか?」
「いや、俺も帰るとしよう」
土方は前を向いて歩き出した。
どこかへ行くらしい沖田と原田に別れを告げると、は土方の少し後ろを歩いた。
が、見てしまった。
土方が一瞬、前を向く直前に沖田たちと目を合わせたのを。
(気のせいだ)
は思った。
土方がほんの一瞬見せたその空気が、自分の中にある違和感と似ているだなんて、きっと気のせい。
「黒谷はどうだった」
ふいに土方が話しかけてきた。
「は、はい」
は急に話を振られて驚いたが、黒谷で変わらずに勉学に励んでいることを話した。
「そうか」
土方が傘の奥から返事をした。
「お前もだんだん板についてきたな」
「・・・そうだとしたら、土方さんたちのお陰です」
「世辞を言うんじゃねえよ」
「いえ、お世辞なんかじゃ・・・」
交わされている会話はいつもと大して変わらない。
が、空気が違う。
前川邸に近づくにつれて、それがどんどん強くなってくるのをは感じていた。
いつもどおりに布団を並べ、床についた。
挨拶を済ませると土方はこちらに背を向けた。も横になり、障子の方へと顔を向けた。
今日は考えすぎて疲れた。目を閉じるとすぐに眠気が襲ってきた。
雨の音が先刻よりも強く聞こえてきている気がする。は薄っすらと目を開けた。
障子越しに見える闇は雨のせいで常よりも濃く見える。
急に障子が左右に開かれた。
「っ」
は驚いて目を見開く。
が、次に視界に映ったものに、もっと目を見開くことになった。
土方が、ずぶ濡れでそこに立っていた。
「え?」
は慌てて後ろを向いた。
土方の布団はもぬけの殻だった。いつの間に出て行ったのだろう。気がつかなかった。
目を凝らしてよく見ると、土方は下帯だけの姿だった。
「どうし・・・んっ」
どうしたのかとが尋ねようとすると、土方は素早く部屋に入ってきての口を手で塞いだ。
声を出すなと言うことらしい。
はこくりと頷いた。
自分の口を塞いだ手から、何か特別な匂いがする。
「・・・」
まさか、この鉄のような匂いは・・・。
「・・・見ちまったなら」
土方が掠れた声で呟いた。
「お前も、共犯だ」
・・・共犯?
には何のことだか理解できない。
土方はゆっくりとの口から手を離した。
は濡れた自分の口元を、枕元に置いた懐紙で拭った。
「今、芹沢を斬った」
何を。
土方さんは、言って。
の思考が停止する。
「会津藩の命令で、ずっと奴を処断する機会を伺っていた。今夜がその時だった」
土方は暗闇の中での目を見て言う。
「俺の小姓になると言うことは、お前の正体を守ることに繋がる。と同時に、俺の懐でこういったことに巻き込まれることにも繋がる」
土方はの顎を取った。
「それが嫌なら、今回は見逃してやる。斉藤と共にお前の新たな身の置き場を考える」
近藤を武士にする。それが土方の第一目標だ。
そのために鬼になることを厭うわけがない。
のことはかけがえのない存在だと思っていても、それとこれとは話が別だ。
いや、大切に自分の手の中で守ろうとするからこそ、己の手の内を知っておいてもらわなくてはならない。
汚いものだけを隠したままなど、この先できるわけもない。
自分は、新選組を動かす鬼なのだ。
新たな身の置き場など。
はそんなことを考えたこともなかった。
ずっとここ最近心の中にもやもやと漂っていたもの。
それが今分かった。
覚悟。
ここで山口誠として生きていくだけではなく、この時代に馴染んで、土方たちと共に生きていく覚悟がの心の中に今、形を成した。
池が光るのはまだ先。
大藩でいただいた任務の遂行。
もう戻れる時を待つだけの日に終止符を打つべき時がやってきたのだ。
は自分の手で土方の手を顎から外した。
雨の音だけが二人を包んでいる。
「・・・そんな格好のままだと、風邪引きますよ」
が先に口を開いた。
「そうだな」
土方は立ち上がって部屋の奥へと進んだ。
が出した手拭いで体を拭くと、乾いた着物に袖を通した。
篠つく雨をつんざくような悲鳴が聞こえてきた。
おそらく八木の妻女であろう。
「行って来る」
土方は障子を開いて、再び雨の中を八木邸へと戻って行った。
は畳に手をついて、その背を送り出した。
20080725