久遠の空 ドリーム小説 僻歌―ヒガウタ― 7

僻歌―ヒガウタ―

update:2008.03.07

僻歌―ヒガウタ― 7 

 島田は翌日の朝、すぐに情報を持ってきた。
 入隊した時の素性書の写しと、さりげない聞き込み調査の書付を土方に渡す。
 島田は普段、図体がデカいだけで何の役にも立ちそうもないぼんやりした人柄を装っているが、それは隠れ蓑であり、実に観察力の高い男であった。
 面接の時には山南の服の小さなほつれを見つけ、土方の襟元に赤い印があるのを発見した。
 前日の夜、島原で遊んだ土方は思わず首を押さえ、ふと笑った。

 余談はさておき、土方は渡された書付を読んだ。
 丹念に文字を追い、そこから何かを掬い取ろうとする。

 「・・・」
 黙って目を走らせる土方の傍らで、島田はじっと待った。

 土方の視線がぴたりと止まり、口元に軽く握った拳を当てる。
 しばらく考え込んだ後、ようやく薄い唇を開いた。

 「ご苦労だった。こいつとこいつを見張っておいてくれ」
 島田は土方が差し出した紙の上で指を差された人物の名前を記憶した。
 「承知しました」
 島田は部屋を辞して行った。


 入れ替わりに原田が入ってきた。
 「土方さん、平助から聞いたぜ。何か俺たちも手伝うことはねえか」
 「今のところ手は打ってある。必要なときは知らせる」
 土方は淡々と述べた。
 「わかった。ぱっつあんと源さんにも伝えとくわ」
 すべてを承知の顔で原田がにっと笑った。
 「ああ」
 いわゆる試衛館グループの連中だ。何も言わずとも動く時は動く。それがあるからこそやっていける。
 言葉には出さないが、土方はそれを頼みにしていた。


 夕方、が前川邸に戻ってきた。
 「ただいま戻りました」
 いつも通りの時間に帰営して、土方に挨拶をする。
 「ああ」
 土方も素っ気無くではあるが返事をした。

 「
 通り名で彼女に話し掛ける。
 「はい」
 「前に田所という奴に口説かれたと言ってたな」
 口説かれたという認識は全く無いが、はこくりと頷いた。
 「その時に何か言ってなかったか?」
 は土方の問いに少々思案し、口を開いた。
 「特に何も。念友になってくれと言われただけで」
 「・・・そうか」
 土方はそれだけを確認すると、文机に向かって座った。

 「あ」
 ふと思い出し、は小さな声を出した。
 「何だ?」
 土方は肩越しにを見た。
 「その後しばらくは顔を合わせていなかったんですけど、つい最近・・・神谷さんに怒られた日の朝に顔を合わせました」
 の言葉に土方はぴくりと眉を動かした。
 「で?」
 「何か・・・以前と雰囲気が違かったような・・・」
 は問われるままに答えた。
 「その時は何を言っていた?」
 土方はさらに質問を重ねる。
 「私が黒谷本陣で英吉利語を学んでいることを知っていました。秘密にしているわけではないですけど・・・」
 探られているようで気味が悪かったことを思い出し、は心のうちで苦いものを噛み締めた。
 確かに内密のことではないにしろ、ほとんど交流もない他人に一歩踏み込まれた情報を知られているのはいい気持ちではない。

 土方は体をの方へと向けた。
 「・・・」
 ふとが顔を上げると、土方がまだ何かを問いたげな目で自分を見つめていた。
 しばらく視線を合わせた後、のほうが先についと目を逸らした。
 その目に浮かぶ、それまでとは別な光を土方は見逃さなかった。
 「何かあったのか」
 「あれは・・・どういう意味だったんだろう・・・」
 忘れかけていた記憶の断片がの脳裏に浮かんできた。
 土方の顔を見ると視線に促され、ぽつりと呟くようにそれを口にした。

 「同志なのではないですか、って言われたんですけど」

 土方の目が僅かに瞠目した。
 「浪士組に属している以上、皆がある程度同じ志を持ってはいるわけですよね。だとしたらそんなことを聞くのって・・・」
 「・・・そうか」
 全員の心が同じく一致しているわけではないことは、近藤派と芹沢派を見れば一目瞭然だが、その分岐点までは同じはずである。
 しかし田所の台詞には、今考えればそれ以外の何かが隠されていたような気がする。

 「飯を持ってくる」
 土方は立ち上がった。
 「あ、私が取りに参ります」
 も腰を浮かせたが、土方はすたすたと部屋を出て行ってしまった。

 ややあって土方が戻ってきた。
 二人差し向かいで食事をする。
 土方は今日のの動向を聞くと、その後は黙ったままだった。
 口数はお互いに多いわけではないが、今日の土方の沈黙はいつもと違う。はそう思った。



 二日後の早朝。
 今日は壬生で相撲が行われる日であった。

 「副長、失礼します」
 まだ夜が明けきらぬうちに障子の外から声がした。
 はその声で目が覚めた。薄く目を開け、土方の方を見た。
 土方も呼ばれて起きたらしく、身を起こしてこちらへとやってくると障子を開けた。
 ゆうべ土方は近藤の部屋で幹部たちと遅くまで相撲興行についての打ち合わせをし、が床に着いてしばらくした後にやっと部屋へ戻ってきた。
 だからほとんど寝ていないはずなのに、すでに一部の隙も無く副長の空気を身に纏っていた。
 「島田か。どうした」
 そこには大きな体を縮めて控える島田の姿があった。
 「佐伯が殺されました」
 島田は声を低めて告げた。

 殺された、という言葉には目を見開いた。
 「先ほど、千本通りの田んぼの中で首を落とされているのを見つけました」
 島田は淡々と報告する。
 「見張れと言っておいた筈だぞ」
 土方は眼光を鋭くした。
 「申し訳ありません。茶屋に入って部屋までは確認したのですが、いつの間にか消えておりまして」
 島田はうな垂れた。
 土方は忌々しそうに首を振った。

 「佐伯はそのような事になりましたが、茶屋で同席していた田所が見当たりません」
 「何だと?」
 続く報告に土方が眉を寄せた。
 「田所と一緒だったのか」
 「はい、田所が巡察を終えた後に二人で連れ立って茶屋へと向かいました」
 「奴も監視の対象にしていたな。じゃあ奴はやはり・・・」
 土方は苦虫を噛み潰したような顔つきになり、丸めた拳を口元へと持っていった。

 「すぐに田所を探せ」
 「はっ」
 島田は土方の言葉を受け、足音を立てずに部屋を辞した。
 あまりの展開には布団から体を出すのが精一杯だった。
 土方はに背を向けて素早く着替えを済ませると、腰に二本を差した。
 「お前は来なくていい。まだ寝ていろ」
 障子を閉める寸前に土方はそれだけを言って、部屋を出て行った。

 は寝ていろと言われたものの、再び布団に潜る気にもなれなかった。
 身支度を整え、布団を上げる。
 久しぶりに朝食の支度を手伝おうと思い、障子を開けた。


 庭に、田所が立っていた。


 池を背にして、副長の部屋に視線を投げている。
 暗い、いや、生気の無い瞳でこちらを見ている。
 は硬直した。
 彼の手に握られているのは抜き身の刀で、しかも赤黒い何かがこびりついていた。
 おそらくそれは、血。


 「た、田所さん」
 どつかれたように心臓がきゅうと締まり、足が震えてきた。
 何も根拠は無い。
 田所に何かされたわけでもない。
 しかし目の前の相手はギラリと銀色に反射する武器を持ち、目付きも通常の人とは違う。

 「・・・あいつらが悪いんだ」
 田所は恐ろしく低い声で語り始めた。
 「佐々木は俺の正体をそうそうに見抜きやがって、今なら黙っててやるから脱隊しろと言ってきやがった」
 田所は右足を一歩前に出した。
 は全く足が動かない。
 「あのお人好しめ、俺が長州の間者だとわかった時点で斬っていれば、女との逢瀬の途中で俺に殺される事もなかったろうにな」
 ははっと吐き捨てるように田所は笑った。

 「佐伯は俺と同じく長州の間者だったが、芹沢に絡め取られて裏切りやがった。碌に活動資金もくれない藩よりも、芹沢の下にいて暴れてるほうがいいとか抜かしてよ」
 ふらりと頼りない足取りで田所はなおも部屋に近づいてきた。
 の全身に冷や汗が噴き出してくる。

 「なあ、あんたは違うだろう?」
 田所は顔を上げ、を見上げた。
 「あんたは浪士組に入って間者をしながら、攘夷の相手である英吉利の言葉を学んでいる。あんたも外つ国の力を認めていて、その力を借りて幕府を倒す算段なんだろう?」
 田所が少しずつこちらに歩を進めてくる。
 は相手の言っている事を頭の中で反芻することは出来ても、凍りついたように足が固まって動けなくなっていた。

 「どなたに雇われてここにいるのだ?副長に取り入るとはたいしたものだ」
 田所の目はもはや狂気しか宿っていない。
 「あ、あなたの言っている事は、違います」
 はやっと声をだした。しかしその声は自分でも驚くほど震えていた。
 「私は、間者などでは、ありません」

 田所は長州という所の間者、つまりスパイで、徳川幕府をよく思っていない。
 親幕派の会津藩御預である浪士組の動向を探るために潜入し、正体を知られた佐々木を殺した。
 そして同じようにスパイとして潜入していた佐伯が、長州を捨てて芹沢につくとなるとこれも殺した。
 さらに自分のことも間者だと思い込んでいる。
 は田所の言葉からそれを汲み取った。

 「隠さなくてもいい。誰にも言わない」
 田所はの話を全く飲み込んでいない様子だった。
 「だが二人を殺したのが俺だとバレるのも時間の問題だろう。その前に俺と逃げてくれ、同志よ」
 田所は手をに差し出した。
 その手は赤く濡れていて、朝日を受けてぬらぬらとした表面がにぶい光を放っていた。

 「・・・っ」
 は背筋が粟立つのを感じ、恐怖に足を折った。膝からがくりと崩れ落ち、畳に尻もちをついた。
 違う、断じて間者ではないと声に出して突っぱねたいけれども、声が出ない。足が動かない。
 「今なら誰もいない。やり過ごせる。さあ」
 田所は障子の際で座り込むに手を差し伸べた。


 と、その時、植え込みの影から人が現れた。
 「田所、貴様!」
 姿を現したのは、芹沢一派である平山だった。
 「怪しいと思って見張っていれば、佐々木と佐伯を殺したのは貴様だったのか!」
 平山は腰に手を伸ばすと大刀の柄を握り、刀身を勢いよく抜き放った。
 「・・・だとしたらどうする」
 田所は肩越しに平山を見遣ると、冷たく残忍な笑いを口の端に上らせて言った。
 「貴様・・・斬る・・・!」
 両手でしっかりと柄を握り、ぎりぎりと奥歯を噛んで、平山は田所を睨みつけた。


 「君たち、何をしているんだ!」
 さすがにこれだけ騒げば周りの者も起きて来る。
 隣室の近藤が出てきて障子を開け放ち、大声で田所と平山の二人を制した。
 聞く者すべての動きを止める、腹の底から響いてくるような声。その声に、場の殺伐とした空気が浄化される。
 も近藤の方に視線を向けたまま動く事が出来なかったが、恐怖心は消え去っていた。

 「田所君、その刀・・・まさかどこかで人を斬ってきたのか?」
 庭で構え合う二人を見て近藤が顔色を変えた。
 はっとして田所は己の刀に視線を落とす。
 「何があったんだ、話を聞かせてくれないか」
 近藤は縁側から降りてきて田所の側へ歩いてきた。

 田所は、近藤が自分に何の警戒心も恐れも持たずに近づいてくるのを見ておろおろとした。
 「く、来るな」
 「大丈夫だ田所君、話を聞くだけだ」
 近藤はゆっくりと田所に近づいていく。

 「来るな・・・俺は間違っていない」
 田所は後じさった。
 「刀を仕舞うんだ、田所君」
 近藤はゆっくりとした口調で話しかけた。
 「来るなっ・・・」
 田所はそれまでの殺気を削ぎ落とされたように、泣き出しそうな顔つきになって近藤を拒否した。
 「まずは君の話を聞く。すべてはそれからだ」
 何もかもを包み込むような空気を発して近藤が語りかける。

 「う、うわああああ」
 突然田所が悲鳴を上げ、刀を取り落として駆け出した。
 「田所君?」
 相手が逃げたのを受け、近藤も走り出した。
 「野郎・・・待て!」
 平山もその後を追った。



 立派な門構えの下を走り抜け道へ飛び出した田所は、壬生寺の方へと角を曲がった。
 が、そこで急に足を止めた。
 そこには芹沢と新見が立っていた。
 朝帰りのようで、酒に酔った顔つきでゆらりと体を揺らしている。

 「ひっ・・・」
 田所は面を蒼白にして息を飲み込んだ。芹沢たちの目は、酔いのせいか恐ろしく座っている。
 「芹沢先生、そいつです!そいつが佐々木と佐伯を斬ったんです!」
 同じく角を曲がった近藤の後ろから平山が叫んだ。


 「何だと?」
 それを聞いて芹沢はぐっと目に力を宿した。
 そして手にしていた鉄扇を頭上に振り上げると、田所の頭を目掛けて打ち付けた。
 「ぐあっ!」
 田所の額にそれは命中し、血しぶきが上がる。
 「芹沢さん!よせ!」
 近藤が叫んだ。

 芹沢は近藤を一瞥すると扇を投げ捨てた。そして腰の刀を素早く抜き、朝日にその刀身を煌かせると横一線に薙いだ。

 ぼとりと重たい音を立てて、田所の首が落ちた。
 はようやく近藤の後ろに駆けつけたところだった。
 スローモーションの映像を見ているように、首が飛ぶ軌道を描いているのが目に入った。
 息が、止まる。
 辺りに血の匂いが立ちこめ、眼前に生首が転がっているのと相まって、は気持ちが悪くなり膝を折って近藤の背にしがみついた。
 近藤はそれに気づいて振り返り、を支えた。


 芹沢は一瞬よろけて、酒臭い息を吐いた。
 「芹沢さん・・・なんて事を」
 近藤が呆然として呟いた。
 「何を言う!そちらに分宿している者がこちらの者たちを殺したのだぞ!」
 平山が血を吐くように怒鳴った。

 「・・・そうかわかったぞ」
 新見の目が嫌な光を湛えた。
 「卑怯ではないか、佐々木と佐伯のように一人ずつそちらの手駒で狙わせ、我らの力を削ごうという魂胆とは!」
 「なっ・・・!」
 新見の叫びに近藤は声を詰まらせた。
 「新見さん誤解だ!我々がそんなことを」
 「以前から多少の食い違いがあるとは思っていたが、そこまでお主たちが汚い手を使い浪士組を我が物にしようとしているとは思わなんだ」
 近藤の弁解を遮り、新見が温度のない声色で自論を展開する。

 「芹沢さん、こいつらは我々を排除しようとしている。こんな奴らと付き合うことはありませんぞ」
 新見は、刀を納める芹沢にそう告げた。
 「・・・そうだったのか、近藤氏よ」
 芹沢がぼそりと言った。
 「違う、芹沢さん!話を聞いてくれ!」
 近藤は焦りを滲ませて叫んだ。こんな誤解で芹沢たちと完全に決裂してなるものかと。

 「こちらの佐々木と佐伯がそちらの田所に殺された。我々は前から意見が合わなかった。それが何を意味するのかはもはや明白である」
 新見は酔っているとは思えないほど冷静に言葉を継いだ。
 「芹沢さん行きましょう。こいつらといたら何をされるかわからん」
 新見は芹沢を促して、来た道を戻っていった。また遊興に出かける気だ。
 「待ってくれ芹沢さん、新見さん!」
 を抱えたまま近藤は二人の名を呼んだ。


 「近藤先生!」
 沖田が騒ぎを聞きつけてやってきた。その後ろから永倉と原田も姿を見せた。
 「総司・・・」
 沖田たちは近藤の前に広がる惨事を見て息を呑んだ。
 「近藤先生、これは一体・・・今日はこれから大相撲だって言うのに」
 さしもの沖田も笑顔を失う。
 「佐々木君と佐伯君が殺されて、その犯人の田所君が芹沢さんに・・・」
 近藤が簡潔に事態を説明した。

 「なんてこった・・・」
 そこへ土方が島田を連れて現れた。
 他の皆と同様に、前川邸と八木邸の間に描かれた惨劇を見て言葉を失った。
 探していた田所が胴と首を切り離されて転がっている。

 ゆっくりとを立たせて近藤は言った。
 「すまんトシ、俺がもっとしっかりしていたらこんなことには・・・」
 近藤の言葉に悔しさが滲む。

 「詳しい話は後だ」
 土方は頭を切り替えて言った。
 「島田と左之助は死体の後始末をしておけ。この道の清めもしっかり頼む。総司と永倉は予定通り相撲の会場の準備だ。ここで殺しがあったことを 見物人どもに知られるんじゃねえぞ」

 それぞれが指示通りに散開した。
 近藤と土方は足早に前川邸に入っていった。そして近藤の部屋に入り、先ほどの経緯を話し合った。


 壬生大相撲は滞りなく行われ、会場の壬生寺には近辺の住民が多数集まった。
 前川邸の奥でその歓声を聞きながら、は横になっていた。

 は近藤たちの後ろからよろよろとした足取りで土方の部屋へ戻った後にへたりこんだ。
 目の前で、人が殺される瞬間を目撃してしまった。
 この前のようにすでに事切れているのとは異なったショックが彼女を襲った。

 はこの日、黒谷に行くことが出来ず、食事も喉を通らなかった。
 考えがまとまらず、ショックで頭が回らない。
 この時代で生きていかねばならない覚悟は出来ていたはずだった。
 山口誠として生きていく覚悟が。
 だが、それ以外の覚悟は何も出来ていなかったことに気がついた。
 それが何なのか、今のには考え付くことが出来ない。

 人気の力士でも現れたのだろうか、ひと際大きな声が聞こえてきた。



 夜、相撲興行が無事に終了した後、前川邸で幹部たちが近藤の部屋に集っていた。
 本日の興行も大入りで、木戸銭も浪士組の評判も上々だった。
 このまま行けば浪士組の未来も明るいものになってゆく。
 会場の設営や周囲への配慮などは、慣れない仕事で実に大変なものであったが、それに見合う報酬は手に入れることが出来た。
 近藤たち前川邸の陣営には和やかな雰囲気が広がっていた。


 「局長、大変です!」
 島田が伺いも立てずに部屋に駆け込んできた。
 「島田君、どうしたんだ」
 急に開け放たれた障子に驚き、近藤が顔を上げた。


 「芹沢さんたちが・・・街中で焼き討ちをしています」
 途中でゴクリと唾を飲み込み、島田が報告した。




 信じられない思いでその場にいた全員が外へと飛び出した。
 話が聞こえていたも身を起こして、着流しに羽織の姿で後を追った。
 その横に神谷がいつの間にか並んで走っていた。
 「神谷さん」
 はまだ気分がすぐれないのを堪えて声をかけた。
 神谷は無言で足を動かしていた。

 二条城の影の向こう側の空が明々と照らされていた。
 大きな炎独特の揺らめきを伴い、あと数日で満月になるであろう月の光と共に、星の光を侵している。
 あそこがきっと―――近藤たちは島田の報告を信じたくない思いで足を運んだ。

 だが、その期待は裏切られた。
 赤い火炎と、物が燃えて爆ぜる音が辺りを包んで。
 燃え上がる建物の隣の屋根に、その人物はいた。




 20080306