士(さむらい)の掟 1
は木の廊下をゆっくりと歩いていった。
黒谷であったことを土方に報告しなくてはならない。
正確に、正直に。
井戸の前で、どう話すかはだいたいまとめたのだから。
だが・・・気が重い。
土方や斎藤に禁止だと言われている事と全く相反する結果になってしまった。
斎藤はまだ江戸から戻ってきていないが、土方はこれから話を聞いてどう反応するのか。
たぶん怒られるだろう。
自分の身の上がバレないように気を使ってくれているのに、当の本人がこれでは。
もし反対の立場だったらと思うと、土方に何と言われようとも仕方が無いと思う。
とにかく間違いなく、本当のことだけを話そう。
は不安に曇る胸のうちを抱えながら土方の部屋へと近づいていった。
「失礼します、土方さん。山口です」
声をかけてみたが返事が無い。まだ部屋に戻っていないのかと嘆息した瞬間、
「、こっちだ」
と、隣の近藤の部屋から土方の声が聞こえた。
ぐっと気が引き締まる。
は障子の外から先ほどと同じように声をかけてから、近藤の部屋へ入っていった。
中には近藤と土方の二人がいた。
「よォ、帰ったな」
土方はちらりとに視線をよこして、すぐに近藤の方を向いた。
無事に帰ってきたんだな、と彼女の姿を見て内心ほっとした。
黒谷に出かける前はあれこれと悪い事態を想像していたが、何事も無くこうして屯所に彼女が戻ってきた。
心のうちに安堵感が広まったが、それを表に出すような土方ではない。
たかが一人の隊士の為に私情を簡単に表していたら副長は務まらないと、常日頃から己自身に言い聞かせている。
「君、ちょうどよかった。今、トシに君の事を報告しようとしていたところだ」
近藤は大きな口を目一杯横に広げ、にこにこと嬉しそうにを見た。
「はい」
は緊張で強張っている。
土方のやや後方に正座し、ぎゅっと拳を握った。
「君、・・・いや、山口殿と呼ぶべきかな。どうぞ上座へ」
近藤が腰を浮かせて膝で移動し、自分が座っていた場所を明け渡した。
「いや、ちょっと局長、やめてください」
は慌てて近藤を止める。
「何やってんだお前ら」
一人訳がわからず土方は妙な目つきで二人を見た。
「だってトシ、君は会津藩士になったんだよ」
近藤が土方の肩に両手をぽんと置いた。
「・・・え?」
土方は一瞬近藤の言葉を理解できず、聞き返した。
「だから、会津藩士に取り立てられたんだよ、君が」
近藤は少しゆっくりと、土方に同じ内容の言葉を伝えた。
「あ、会津藩士?!」
土方は驚いて勢いよく立ち上がり、を見下げた。
そして、本当なのか、と目で聞いた。
は土方の勢いに身を竦めたが、そろそろと顔を上げて視線を合わせた。
そして、本当なんです、と答えた。
「・・・それで、私に英吉利語を学んでもらいたいという話になって」
土方が微塵の嘘も許さない鋭い目付きで睨みつける中、が黒谷での一幕を語った。
「それだけでどうして藩士になるならねぇってハナシになるんだ」
その場にいなかった自分が腹立たしい。
あれだけ彼女を人目に立たせないように、奥に引っ込めるようにしてきたのは何だったのか。
もし自分が同席していたら、どんな言い訳を使ってでもこんなことにはさせなかったのに。
藩主松平容保が列席しての場で。
「金戒光明寺の宿坊を使って行われている藩士のための学校に通って学ぶのだから、藩士の資格が必要だ」
公用方の秋月が、が申し出を了承したことに胸を撫で下ろながら口を開いた。
「そなたに会津藩士の身分を与えよう」
続けて発せられた言葉に、壬生浪士組の面々は膠着した。
自分の方に、その場に居る全員の意識が注目されているのがわかる。
前に座る局長三人の意識ももちろん。
特に左前に座している新見は、肩は正面に固定したまま目だけをこちらに向けて、驚きと嫉妬の目でを睨み付けていた。
今まで、短い期間ではあっても、会津藩足下で京の治安を守るよう努力してきたと言うのに。
こんなぽっと出の、そわそわと落ち着きもなく、碌に剣のひとつも振るえず、屋敷の奥でこそこそと動いているような奴に。
新見の突き刺すような視線を受け、は居た堪れない気持ちになった。
自分だって新見と同じ気持ちだった。浪士組の面々は、治安維持のためにわざわざ遠くから京までやってきて、巡察をし、時には剣を振るって命を賭けることも
あるだろう。つまり、信念のために誰かの命を奪うこともあると言うことだ。
だが、自分はどうなんだ。
常に誰かに庇護してもらい、秘密を隠し、平和なところで守られて生活している。
それなのに、浪士組の雇い主である会津藩に、自分が先に取り立てられてしまった。
どのような思いをこの場に呼び込んでしまったのかは容易に想像出来た。
は平伏しながら目を固く閉じ、身を小さくした。
心の中に何かがずぶりと突き刺さってゆく。
「そなたのことを少し調べさせてもらった」
今度は同じく公用方の広沢が話し始めた。
は“調べさせてもらった”という言葉に目を見開いた。
土方と斎藤以外は知らぬはずの、自分の正体を、まさか。
「・・・播州明石が国許で、明石藩足軽の三男だそうだな。二人の兄が上におり、家督を継ぐ必要もない。我が藩に取り立てと言うのは悪い話ではないと思うが」
広沢は姿勢よく正座し、柔らかな口調でに言った。
どっと冷や汗が出た。
別の時代から来て、羽織袴の中身は女子であるということはバレていない。
広沢が言ったプロフィールは彼女が化けている山口のものだ。
ほっとしたは顎まで伝ってきた汗を袖口で押さえた。
「ついては藩から俸禄も支給される。どうか存分に研鑽に励んでもらいたい」
広沢がそう告げ、面会は終了した。
「何が藩士の身分だ、俸禄だ。単にコイツを洋学所に留めるためのエサじゃねぇか」
土方は眉に深く皺を刻むと親指でを指した。
「身もフタもないことを言うな。そうでもしなければ人が集まらんのかもしれんぞ」
何と言っても夷荻の言葉だからな、と近藤は土方を諌めた。
小さく舌打ちをして、土方はをぎろりと睨み付けた。
「テメェ自分のしたことがわかってんのか?簡単に返事しやがって」
「はい・・・」
は土方の眼差しに含まれるものの意味を理解していた。
黒谷に出向いて洋学所で学ぶと言うことは、土方や斎藤に常に守られて行動することが少なくなる、つまり単独行動が多くなると言うことだ。
会津藩の駐屯する屋敷に出入りするとなると、公用方に会う機会も格段に増える。
そして異国語を学ぶ。
この時代のものでない彼女が少しでも平穏無事に暮らすために決めたルールがすべてひっくり返されるのだ。
「やっとここでの生活に慣れてきたばかりだってのに、テメェという奴は・・・!」
はーっと長く溜息をついて、土方は米神を押さえた。
怒り皺が取れなくなるのではないかと思うほど眉に力を入れた土方の横顔を見て、は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
これまで散々気を使ってもらってかばってもらい、武力集団の中にいながらも怪我一つなくやってこれたのは土方と斎藤のおかげだった。
彼らの言うことを聞いてきたからこそだった。
しかし、今日たった一日で、もっと細かく言えばあの返事ひとつでそれをすべて壊してしまったのだ。
「申し訳ありません、土方さん」
土方の部屋へ二人して戻ると、は項垂れて謝った。
「何に対してそう思ってんだ」
土方が切り返す。
「これまで右も左もわからない私をご指導してくださったのに、勝手な真似をして」
は思ったことを口にした。
「まったくだ、この野郎」
これが男だったら胸倉を掴んで殴り飛ばしてやるところだ。
「ったく・・・今更断ることも出来やしねぇし」
土方は背中を丸めて腕を組んだ。
「で、これからどうすんだ」
もう仕方がないと、やっと諦めたように土方はに聞いた。
「はい、英吉利人の先生と、江戸の会津藩邸にある洋学所の方の都合がつき次第、授業が始まるそうです」
講師として招聘している英吉利人の到着が遅れているのと、江戸の藩邸内にも置かれている洋学所を統括している人物が自分の業務を振り分けて
こちらに来るまでもう少し時間が必要なため、実際に開講するのはまだ後になると広沢から説明された。
「それまでは屯所で待機か」
土方は文机に肘を着いて横目でを見ながら言った。
「いえ、本陣内の学校で色々と学んでおけとのことです」
その視線を受け止めながらは答えた。
「いろいろとは?」
英吉利語を学ぶ下準備か?と土方は思った。
「礼儀作法とか、勉学とか、・・・武道とか」
は聞いてきたことをそのまま、恐る恐る言った。
「ぶ、武道だと?」
馬鹿野郎、と土方の大声が屯所内に響き渡った。
翌日、はいつもより少し早く起床した。早速今日から黒谷に赴かねばならぬからだ。
朝飯の支度をし、身の回りのことをこなしてから遅刻しないように出かけるには時間が必要だ。
井戸で顔を洗って着替えて台所に行くと、すでに釜は火にかけられており、辺りにいい匂いが漂っていた。
ぽかんとして入り口に立っていると、作業台の前で包丁を使っている影が振り向いた。
「あ、おはようございます」
笑顔で挨拶をしてきたのは神谷だった。
「おはようございます・・・これ神谷さんがお一人で?」
立ち上る湯気を見ながらは言った。
「はい!私、皆さんを起こしてきますので火を見ていていただけませんか?」
が頷くと神谷は素早く台所から姿を消した。
そっと鍋の蓋を開けてみれば、ごろごろと大きく切った根菜がたっぷり入った煮物。それに味噌汁。釜を覗いてみれば銀シャリ。
ずっと自分が食事の担当をしていたので、他の人が作った料理を食べるのは久しぶりだ。
は嬉しくなり、一人で笑みを浮かべた。
ところが。
起床の掛け声で起きてきた隊士たちが台所の隣に用意された食事に涎を垂らしていると、土方がやって来た。
そして膳を見るなり沖田の横っ面を張り飛ばした。
「ひ、土方さん?!」
「土方副長!?」
「トシ・・・!」
一緒に盛り付けを手伝っていたの手が止まり、沖田と土方に全員の目が集まる。
「神谷の世話はお前にまかせたはずだ総司!何のつもりでこんな飯を炊かせた!?」
はっとしては茶碗を見た。そこには銀シャリ―白米がよそわれており、いつもの麦入りのご飯ではなかった。
「・・・すみません、私の監督不行き届きです」
すでに土方が何に怒りを向けているのかわかっていた沖田は、抵抗することなく謝罪した。
間に入ろうとする神谷を制し、台所の一切を沖田と神谷に任せ、土方は残りの隊士たちを引き連れて畑へ行ってしまった。
屯所では麦入りの飯を食い、材料を節約して経費を抑え、会津藩の御預ではあるが俸禄をもらわずに京の治安を守る役目を果たしているのだ。
今、神谷が作ったような献立は決して許される事の無い贅沢なものだったのだ。
は畑へすたすたと歩いていく土方の背中をじっと見つめながら付いて行った。
「何だ」
その視線に気がついて土方が振り向いた。
「あ、いえ、何でも」
まさか振り向かれると思っていなかったは慌てて誤魔化した。
「何かあるなら言え」
今度は土方がをじっと見つめる。
「・・・あの」
どうもこの人の目は人の心をこじ開けるような時がある。そしてそれを拒む事は出来ない。は観念して思ったことを口にした。
「もし何でしたら、私が俸禄をもらったら」
「そこまで落ちぶれちゃいねぇよ」
お渡ししますから食費に当ててください、と言おうとしたが、土方はお見通しと言わんばかりに彼女の言葉を遮り、前を向いて歩いていった。
自分だけ俸禄をもらうことになってしまったことを気にしていたは、少しでも役に立てたらと思ったが、その思いは叶わぬ事になった。
畑に着いた面々は、土方の指示で草をむしったり、水や肥やしを撒いたり。
誰もが今日の土方が荒れているのに気がついていた。指図の仕方が乱暴で、出さなくてもいい大声で。
山南によると、沖田を殴ったのは新入隊士に土方自身が嫌われるため、隊内の組織化には畏怖でもって制する存在が必要なためということらしいが、
それを土方が、たった一人でやる必要があるのだろうか。は畑の隅で雑草を取りながら思った。
ふと顔を上げると、植え込みの隙間にきょろりとした目があった。
「・・・神谷さん?」
神谷だった。
「あ、さん、あの、えっと、ご飯です」
かがんで覗き見をしていた神谷は、に見つかってすっくと立ち上がった。
「呼びに来てくださったんですか?ありがとうございます」
はにこりと笑った。
「皆さーん、朝餉ですよー!」
神谷が畑に向かって大きな声で告げた。
その頭には、植え込みの葉が一枚付いていた。
は手を伸ばし、それをそっと取ってやった。神谷はありがとうございます、と笑った。
朝餉が済み、部屋の掃除も終えたは屯所の門をくぐった。
これから黒谷へ行く。時間的には少し早めだが、もし迷った時の事を考慮してだ。今日は誰も一緒には行かない。昨日歩いたばかりの道だから、
何とかたどり着けるだろう。
近藤には挨拶できたが、土方は忙しく立ち回っていてどこにいるのかわからなかった。
「さん、お出かけですか?いってらっしゃい」
沖田が門の外を箒で掃いており、声をかけた。
「行って参ります」
は軽く頭を下げてすたすたと早足で進んでいった。
屯所を出て川を左手に歩く。しばらくすると別の川に突き当たる。それを越え、さらに三本ほど川を渡るとひときわ大きな川――鴨川に出る。
橋を渡ると大名屋敷らしい大きな建物が左右に見え、その奥へ進んだところに紫雲山金戒光明寺がある。
昨日の記憶をたどり、すんなりと光明寺に着く事ができたはほっとして汗を拭った。
本陣に入ると別室に通された。
少し待ってから呼ばれ、公用方の秋月と広沢と面談した。
以前斎藤に躾けてもらったため、公用方と最低限相対できる程度の礼儀は身についていた。
光明寺の宿坊の幾つかを上京してきた藩士の学校に当てている事は昨日聞いた。
それにが、いや、山口がどの程度ついていけるのかを公用方二人は聞いて判断した。
これも斎藤の指導のお陰で読み書きの面では全く心配が無かったが、問題は武術の科目だった。武術関連のことは全く学んでこなかったからだ。
足軽の家に生まれ、剣術に優れた兄までいるのにと秋月たちは訝ったが、どうしても上達しませんでと誤魔化した。
講師陣が揃うまで、は学校で総合的に学ぶ事になった。
そして武術には特に力を入れ、会津藩士の名に恥じない腕前になるよう申し付けられた。
果たしてどこまで上達するかは自分でもわからないが、免除してもらうわけにもいかない。女子だと絶対にばれないように細心の注意を払いながら
やっていくしかなかった。
「では早速」
と言って広沢が手を叩くと、部屋に風呂敷包みが届けられた。
「容保公からそなたに」
押し戴いてから中を改めると、稽古着や書物などが入っていた。
は藩主の気遣いが心に広がり、温かい気持ちになった。
「これから剣術の稽古が始まる。すぐに着替えて参加いたせ」
・・・今すぐですか?
は背中に冷たいものが伝わっていくのを感じた。
あまりのへっぴり腰に呆れた剣術師範は、徹底的にをしごいた。
体中を竹刀で打たれ、延長された稽古の時間がやっと終わる頃、は立てなくなっていた。
腕前は全くだが弱音は吐かずについてきたを気に入った師範は、明日も楽しみにしているぞと声をかけて道場を後にした。
ようやく着替えを済ませ、黒谷の門を出た。
風呂敷包みを抱えたは、角を曲がって門が見えなくなったところでへたへたと座り込んだ。
元の時代でもこんなにハードな運動はしたことがなかった。痛くない場所を探すのが難しいくらいにあちこちが痛い。
しかも熱心な師範の指導で、すでに日は落ちている時間だ。
はギシギシと悲鳴を上げる肉体を引き摺るようにして屯所へ戻ろうと立ち上がった。
おかしい。
何かがおかしい。
一体どこで間違えたのだろう。
自分が明らかに道を間違えていることに気がついたのは、かなり長く歩いた後だった。
大きな川――鴨川を渡り、さらに川を四本渡って右手に別の川を見ながら帰れば屯所に着くはずだった。
今彼女の目の前には立派な門が立ち、その奥には華やかな灯りが煌いている。
道行く男と女。門には郭と書かれた大きな提灯。その横には背の高い柳がゆったりと枝を揺らしていた。
来た事が無い場所だ。
どうしようかと頭の中がぐるぐるしてきた。
まさか小さな子どもでないのに迷子だなんて。恥ずかしい。
しかしここがどこだかわからない以上、この門をくぐり、誰かに浪士組の屯所はどこか教えてもらわねばならない。
何となく入りづらい雰囲気ではあったが、は荷物を抱えなおして中へと入っていった。
「山口ではないか?」
入ってすぐに、自分を呼び止める声がした。
そちらに顔を向けると、そこには芹沢がいた。
「芹沢先生」
大通りの両脇に並ぶ店の灯りに照らされた芹沢は、酔って上機嫌の足取りでに近づいてきた。
「山口、お主、本日は黒谷へ出かけたのではなかったのか?」
芹沢は懐から扇を取り出し、ばっと広げた。
「はい。帰りの途中なのですが、実は道に迷いまして・・・」
非常に恥ずかしかったが、ここで芹沢に道を聞けば屯所に帰れる。斎藤からは芹沢には近づくなと釘を刺されていたが、道を聞くぐらいは大丈夫だろう。
「道に?」
芹沢は一瞬驚いた顔をしたが、大きな声で笑い出した。
「ははは、山口、たかが黒谷からの道で迷うたか」
通りを歩く人たちが皆振り返るような声で笑われたが、は気にしなかった。
「芹沢さん、どうしました」
芹沢のすぐ後ろの店から新見たちが出てきた。どうやらその店で飲んでいたらしい。
新見は芹沢の前にが立っているのを認め、すっと目を細くした。
「これはこれは山口殿。俸禄をいただいて早速島原通いですかな」
嫌味たっぷりの口調で新見は言い放った。
新見も今日が黒谷に赴いた事を知っている。そこから推理したことを皮肉たっぷりに言ったのだ。
「い、いいえ、そのようなことでは」
は新見の台詞から、ここが元の時代でも聞いたことのある遊郭・島原であることを知った。
「山口はな、黒谷からの帰りで迷子になったそうじゃ」
芹沢が扇で顔を煽ぎながら新見たちに言った。それを聞いた新見たちも、先ほどの芹沢と同じように一拍置いた後に笑い出した。
やっと笑い声が止むとは芹沢に問うた。
「芹沢先生、そんなわけなので、屯所までの道をお教えいただけませんでしょうか」
芹沢は煽ぐ手を止め、扇で開いている掌をぽんと叩いた。
「そうじゃそうじゃ、お主迷子であったな。では共に帰ろうぞ」
は道を教えてもらって別れようと思っていたが、芹沢は体を翻すと柳の揺れる門の外へと歩き出した。
「せ、芹沢さん!もう一軒行くと言っていたではありませんか」
慌てて新見が芹沢に声をかける。
「本日はもうよい。こうして迷子もいることだし、もう戻ろうぞ」
芹沢は背中越しに新見にそう言い、参るぞと声を放って島原の門をくぐっていった。
「・・・芹沢さんの機嫌がいいのに感謝するんだな」
の顔に酒臭い息を吹きかけて新見は芹沢の後を追った。それに野口たち他の面子も続く。
は一番後ろについて行った。
芹沢の背中を前に見ながら、新見は後ろを歩くのことを苦々しく思った。
こいつのせいで今夜のこれからが台無しになった。
大体、ろくすっぽ剣も触れないくせに会津藩士だと?
ああむかつく。
何なんだコイツは。
20071130
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参考文献:
『京都時代MAP 幕末・維新編』光村推古書院 2003年
『白虎隊の学舎 会津藩校日新館』 会津藩校日新館 1994年